平野の「アトリエひこ」と、そこに隣接する「となりの三軒長屋」にて、展示「文字とのつきあい」が開催される。
アトリエひこは、ダウン症と重い心臓疾患を伴い生まれた大江正彦(通称:ひこくん)の母が、「好きな絵を思う存分描かせてやりたい」という願いから、同じように障害のある仲間を迎えて1994年に開設。現在も知的障害のある人が集い創作を行っている。
アトリエひこには知的障害のある人たちが集っており、十数名のうち文字を使って文章を自ら作って書く人は2名だけである。喋ることに関しては、全く発語の無い人、あっても一語文の人が多い。
アール・ブリュットを目にする機会が多くなった昨今、中でも文字に関連する作品が目立つことにお気づきの方はたくさんいらっしゃるのではないだろうか。なぜこんなにも文字を書くのか、書かずにはおれないのか、はたまた書かされるのか。この度の展示ではアトリエひこの8名それぞれの人の事情から彼らの文字とのつきあいを考えてみたい。「文字とは、言語を点や線の組合せで単位ごとに記号化するもの。(Wikipediaより)」
彼らにとって、「記号化」は大変に難しい。他にも左右の目で一ヶ所を集中して見ること、目と手を連動させること、手本通りに書き写すため短期間記憶すること、絵とは違って外せない決まりを守ること、等々、文字を書くためには相当な忍耐を強いられているはずだ。
親御さんは「せめて自分の名前くらいは書けるようになってほしい。上手く喋れなくてもコミュニケーションが取れるようになってほしい」と切に願う。支援学校でもこういう子どもたちにどう文字を習得させるか、様々な工夫がされる。
卒業するととたんに文字を書く場面はなくなる。が、苦労した分、思いの外、字を書くことは深く彼らの身体に染み込んでおり、間違いを正してくれる先生も居なくなって、自宅で、アトリエで、独自の文字書きが始まる例にいとまがない。本来の文字を書く意味から離れ、しかし字を書いているという意識で、それぞれが展開していくさまを見ていただきたい。きょう、あなたは筆記具を持って字を書きましたか?
日常生活において書くシーンが激減していることとパラレルであるかの様に、彼らは書くことをやめない。夜な夜な書き耽っては昼夜逆転、フラフラになることもしばしばだ。彼らの文字書き行為自体が新たな領分として名付けられてもいいのではないか。アトリエひこ 石﨑史子
文字とのつきあい
出展:稲留武史、大江正彦、佐藤春菜、嶋谷歩美、杉本道隆、久田奈津紀、平田安弘、松本国三会期:2024年10月12日(土)~26日(土)
会場:アトリエひこ・となりの三軒長屋
時間:13:00〜18:00
休廊:月・木曜 ※10月14日(月・祝)は開館
アトリエひこ
となりの三軒長屋
大阪市平野区平野本町4-3-20