大阪のアートハブ・TRA-TRAVELが実施するアーティスト・イン・レジデンス企画「AIRΔ」のショートリサーチレジデンス作家として、インドネシア・バンドンを拠点に活動するアーティスト兼キュレーターで、現在TOKAS(東京)で滞在制作を行っているリスキー・ラズアルディを迎えてのスクリーニング&トークイベントが、玉造のキッツキにて開催される。
AIRΔ vol.13では、インドネシア・バンドンを拠点に活動するアーティスト兼キュレーター、リスキー・ラズアルディをショートレジデンス作家として招聘します。リスキーは映像と拡張映画の分野で活躍し、制度化された情報やイメージの物質性をテーマとした作品を数多くの芸術祭や展覧会で発表しています。
本イベントでは、インドネシアのビデオアートと実験映画に焦点を当てた「映像スクリーニング」と「キュレータートーク」を開催します。映像の「物語性」からの脱却を目指すアーティストたちの作品が紹介され、ビジュアル表現や映像速度の操作に関する実験が展開されます。特に、インドネシアのビデオアートの先駆者ゴトット・プラコサ(Gotot Prakosa)の作品『ベガワン・チプトニング(Begawan Ciptoning)』(1976年)は、ジャワ伝統の舞台劇をタイムラプス映像で凝縮し、時間を操作することを芸術として表現することで、次世代アーティストへの新たな可能性を示唆するものとして知られています。本プログラムのビデオアート作品は、ゴトットの「時間」に対する探究心に影響を受けた現代の作品群と言えるでしょう。デジタル技術の進化による時間表現の多様性(無限ループなど)や、視覚と時間の新しい映像表現を体験できる貴重な機会です。
また、今回はシネマ形式ではなく、アフターアワーを過ごす「バー」というパブリックな場所で開催されます。19時からはキュレータートークセッションもありますので、ぜひご参加ください。(主催者より)
招聘アーティスト:
リスキー・ラズアルディ Rizki Lazuardi
1982年インドネシア、スマラン生まれ。バンドンを拠点に活動。2020年ハンブルク美術大学(ビジュアル・アーツ、フィルム)修了。
主に映像と拡張映画の分野で活動するアーティスト。制度化された情報とイメージの物質性にまつわるテーマで作品を制作。彼の作品は数多くの芸術祭や展覧会、芸術機関で発表されている。バンドンを拠点とするキュレーション・プラットフォーム「Indeks」を運営。
TRA-TRAVELのQenji Yoshidaによる、アーティストへのインタビュー
Qenji Yoshida(以下QY):こんにちは、リスキーさん。まずは簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいですか?
Rizki Lazuardi(以下RL):私は主に映像を扱うアーティスト兼キュレーターです。2020年にDian Arumningtyasと共に、インドネシア・バンドンを拠点とするキュレーション・プラットフォーム「Indeks」を立ち上げました。スタジオでの活動に加えて、映画祭や美術館、メディアアートの展覧会のキュレーションも行っています。
QY:映像を主軸にされているとのことですが、子どもの頃はテレビっ子だったのでしょうか?
RL:そうですね、子どもの頃はテレビも映画も好きで、特に古い特撮のビデオをよく観ていました。そこからいつしか「映画を作ってみたいな」「映画学校に行きたいな」と思うようになりました。ただ、映画制作のようにチームで働くのは自分には合わないかもしれない、と薄々気づいてもいました。
QY:確かに。チームでの仕事には、創作のクリエイティビティとはまた違ったスキルが求められますよね。
RL:そうですね。そんな中、2000年代のはじめに本当に偶然、ジム・ジャームッシュの実験映画のテープに出会ったんです。その出会いがきっかけで、実験映画はチームがなくても制作できる可能性があると気づき、そこからビデオアートや拡張映画のインスタレーションの世界へと導かれていきました。2020年に映画とタイムベースメディアを学んだ後は、拡張映画の制作に力を入れるようになり、映像尺を短くしつつ、現在は空間的な側面での芸術性を探求しています。
QY:今回、リスキーさんは東京のTOKASでレジデンスに参加されていましたが、日本ではどんなプロジェクトやリサーチを行っていたのでしょうか?
RL:日本では、一見関連性がなさそうに見える「茨城県常陸大宮市にある放射線育種場」と「日本の高級果物文化」についてリサーチしています。最近閉鎖されたこの施設、別名「ガンマーフィールド」では、ガンマ線を使って野菜や穀物、果物に突然変異を引き起こし、収量を増加させる試みが行われていました。この技術は、戦後アメリカが推進した「平和のための原子力政策」の一環として生まれたものです。また、日本の高級果物については、完璧な外観をもつ果物がお土産文化において長く役割を果たしてきたことについて調べています。
この二つのテーマは一見異なるように見えますが、どちらも「過剰に加工された果物」であり、「権力関係の交渉に絡む存在」という共通点があると感じています。QY:どちらも非常に興味深いテーマですし、二つが組み合わさることで最終的にどのようなアウトプットになるのか楽しみですね。さて、話題を変えて、今回大阪で開催する映像スクリーニングについてお聞かせください。シネマ形式ではなく、パブリックな場所でイベントを行う意図についても教えていただけますか?
RL:まず、イベント名の「PALAPA」ですが、これは私が2021年からキュレーションしているIndeksの映像アートプログラムのシリーズ名です。通常は一般的な暗室でのシネマ形式で開催していますが、芸術的な実践として新しい可能性を探りたいと考えるようになりました。
このスペシャルエディションでは、キュレーションやプレゼンテーションのあり方において、協働するパートナーの実践と共鳴するプログラムを重要視しています。TRA-TRAVELのプログラムづくりは、アートに限らない様々なジャンルのスペースとの協働を重視するアプローチを取っているので、リミナル(境界的)な空間やアートサークルの外の観客も含められるようにプログラムを設計しました。QY:いつものスクリーニングとは異なる挑戦ですね。バーという空間で映像作品がどのように溶け込み、どんな体験が生まれるのか、私たちも楽しみです。イベントタイトル「After-Hours Time Dilation」についても少し聞かせてもらえますか?
RL:「After-Hours Time Dilation」は、時間をテーマにしたインドネシアのビデオアート作品のアンソロジーで、技術的な操作を通して時間の感覚を変化させる試みのある作品たちです。インドネシアの社会・文化的な文脈では「時間」は流動的なものと見なされることが多いです。実際、私たちの言語には時間に関する文法が存在せず、それゆえ都市開発が進む中で時間厳守を徹底するのは容易ではありません。一年中昼夜の長さがほぼ変わらない国において、私はこの点を非常に興味深いと感じています。
QY:面白いですね。日本の場合は四季があり、一年を通じて変化や起承転結があり、それが侘び寂びといった美意識に醸成されたのが感覚的に理解できます。一年を通じて昼夜の長さが一定の場所から生まれる世界観や美意識に、とても興味が湧きました。
RL:そうですね。仕事終わりのアフターアワーに、時間から解放されてリラックスできる隠れ家的なバーでこのプログラムを実施することは興味深い試みになると思います。
AIRΔ vol.13 リスキー・ラズアルディ Rizki Lazuardi
スクリーニング/トークイベント
「AFTER-HOURS TIME DILATION(PALAPAスペシャルエディション)」日時: 2024年11月22日(金)
スクリーニング 16:00〜23:00
キュレータートークセッション 19:00〜20:00
※日英通訳有(通訳:和田太洋)/トーク時は上映をストップします会場:キツツキ
料金:入場無料(1ドリンク制) ※予約不要
主催:TRA-TRAVEL
共催:Indeks
助成:大阪市、芳泉文化財団
協力:キツツキ、Tokyo Arts and Space
大阪市東成区東小橋1-18-31