大阪出身・在住の写真家・三保谷将史(みほたに・まさし)の個展「『写真』をめぐる」が、西梅田のVISUAL ARTS GALLERYにて開催される。
本展では、いわゆる「カメラを使わない写真」による複数の作品シリーズを一挙に展示。写真という媒体の本質や、写真が社会にもたらす影響について再考を促す。
展覧会に寄せたテキスト
「いわゆる写真っていう媒体の、その周辺をウロウロし続けてます」自分の作品についてある時そう話しながら、あながち的を得た表現かもしれないと自分で思った。「写真」と言えばカメラで写されたものと当然認知される。けれどもPhotographの語源が「光で描かれたもの」を指すことに重きを置けば、カメラは光を採取する方法の一種にすぎない。今回はそんな「カメラを使わない写真」による複数の制作物を展示する。
最近気になっているのは、そのカメラとレンズによる一元的な観点/近現代に認知される写真を含む「映像」は、僕らの視覚へ支配的に根差しているということ。言葉があたまの中でこだまするように、映像が人の意識に作用することは、今にはじまった話では当然ない。ただその今、複雑に発展する映像環境に多くの人は晒され、自分もまたその当事者の一人である。最近の制作はその一辺も写し出している気がする。
展示作品
写真素描/Photo Drawing (camera obscura)
「今はシャッターを押せば一瞬で撮影できる。けど昔は手で描いていた。」
そんな風に捉えることもできると、写真の前史を眺めながら思った。
大判カメラをカメラオブスクラと見立て、写すのではなく描くという逆行を、写真の町・東川町と東京のドヤ街・山谷地域での滞在制作を契機に実践した。現地で出会う百を超える人々を、一人ひとり描いていった。
絵が素人の自分が相手の姿をただなぞることに徹する。その結果としての一枚は技術的に優れたものではない。ただおよそ5分の間、暗幕のなかで追い続けた光の濃淡と、その時交わした言葉や時間の余韻が、これらの絵を不思議と写真らしくさせる。
Images are for illustration purposes
これらはコンビニやスーパーマーケットに並ぶお菓子や日用品、そのパッケージに印刷されたイメージ写真の部分をネガとして扱い、カラー暗室でプリントしたもの。このプロセスによってもとの文脈から切り離されたイメージ写真は、本来容易に連想できたはずの具体的な情報が失われた抜け殻のように、ただの不可解な像として印画紙上に残されている。
ウェブ上に写真が溢れ返るようになった一方、印刷物もかつてないクオリティでの大量生産が続く。イメージ写真はそうした消費社会と複製技術の「いま」の一片として日常にある。フォトグラムは、素材の表面に残る網点のパターン、プラスチックや紙といったパッケージの素材感とともにそれを定着している。
たとえば光の原理的な側面から見れば、印画紙の特性によって反転された色彩は、物体に吸収されて私たちの眼には届かなかった、いわば光の裏側でもあり、現実との物理的な接点を持つ記号であるとも言える。それは視覚媒質としての光を受け取るチャンネルが無数に在り、私たちの視覚もあくまでその一つという隠喩を垣間見ているようでもある。
写真素描/Photo Drawing (camera lucida)
タルボット氏はかつて自身の画力を嘆き、またそのコンプレックスがネガポジ法発明の一助でもあったと聞いた。けど、そんな彼による絵をみた時、僕は「なんか良い絵だな」と感じた。簡素な線のその押し付けがましく無さ、とかなのだろうか。その素描には、カメラルシダという描画機器が使われていたらしい。
その道具を入手した自分は、日常的に何気なくみているyoutubeやリールといった映像の素描を日課とすることにした。選別はせず、ただ自身の視聴履歴として描いている。幾多のコンテンツが再生される液晶画面上の映像も、現代の社会的風景の一つだと捉えている。アルゴリズムによって脈略立てられ、彩られた光景は、資本主義の末期的な様相のようでもある。
もとは写真の起源とも言える絵を通して、逆に写真をみている感覚も気になっている。この描画器具の黎明期に、こうした実感は存在もしなかっただろう。
LCD imagery
これらのイメージは、AI画像生成ツールで出力した日々の記憶をベースにしている。僕にとってこれらはあたかも私写真のように、その時の記憶を喚起させる。入力テキストを思索する過程を経て、その記憶を彷彿する画像が出力できることを、まるで念写のように感じ、同時にその実現可能性も思う。
作品は、そうして生みだされた画像を表示するモニターに、感光材を塗った紙を張り付けて露光したもの。自律するテクノロジーと人との相補的な在り様にも思える、液晶上の画像の変遷。そのエフェメラリティと、それを再生するデバイス、双方のインデックスをフォトグラムは写しとる。僕はこのことも写真的であると考えている。
三保谷将史 プロフィール
写真家。1987年大阪生まれ、在住。
高校卒業後、独学で写真をはじめる。のち展覧会等で発表も行う傍ら、写真と芸術に関わる様々な職種を経て現在に至る。自身の日常を対象とした制作を続けており、2016年頃からはカメラを使わない写真技法を主軸に、最近は絵を描いたりもしている。関心は現代からイコンまでを射程とした写真の原理、メディアと意識構造の関係。podcast「JAPAN UNK RADIO」を通して同時代の作家との話の収録も続けている。直近での発表に個展「Photo Drawing」(2024年北海道)、「バンコクアートブックフェア」(2023年タイ)、「UNSEEN Amsterdam Photography Fair」(2021年オランダ)など。コマーシャルワークでは雑誌STUDIO VOICE(vol.415)での海外取材チームに撮影で参加。主な受賞歴にIMAnext ショートリスト(2023年)、JAPAN PHOTO AWARD 太田睦子氏選(2018年)など。現在は大阪ビジュアルアーツ専門学校、京都芸術大学両校の写真学科で非常勤講師を務める。
三保谷将史 個展 「写真」をめぐる
会期:2025年1月9日(木)〜2月9日(日)
会場:VISUAL ARTS GALLERY
時間:10:00〜18:00 ※土・日・祝は17:00まで/最終日は15:00まで
料金:入場無料
大阪市北区曾根崎新地2-5-23
ビジュアルアーツ専門学校 1F