
「アートとともにありのままに生きる」をキーワードに、自然の循環が人々にもたらすことを、芸術分野から研究するオープンアートラボ「SUCHSIZE(サッチサイズ)」。大阪市西成区のスペースで季節毎に展覧会を開催し、さまざまな人が交流する場を創出している。
2025年春展では、絵画の二次元性と三次元性、空間をテーマに実験的に制作するアーティスト・角鹿万梨子の作品を展示する。
Statement
詩人 北園克衛の《単調な空間》は、単なる文字の羅列を超え、詩そのものが視覚的なリズムと空間のひろがりを奏で、私たちに空間へと足を踏みいれる体験をもたらす視覚的な詩です。本春展では《単調な空間》のように、絵画という2次元の舞台から無限の空間へと私たちを誘うアーティスト、角鹿万梨子を紹介し、彼女の作品をとおして私たちがもつ日常空間へのまなざしを改めて親しむ機会をもちます。
角鹿の絵画は、壁画や天井画にみられる絵画と空間との関わりや、水墨画にみられる線と面のあり方を引き継ぎ、下地と絵具の滲みやグラデーションを巧みに用いることで、果てしなくひろがる幻想的な遠景の空間や風景を描き出しています。油絵具の濃厚な質感と墨の流麗な線が有機的に混ざり合う《Form Form》に象徴されるように、さまざまな素材の特性を活かした角鹿の動的な筆致は、一筆ごとに紡ぎ出されるリズムとエネルギーがキャンバス上に重層的な表情を生み出し、絵画全体に息づく奥行きのある存在感を与えています。
また《Intervention》などに見られる画中の余白は、絵画から壁面へ、2次元から3次元空間へとつながる入口として描かれ、その先は展示空間を超えて日本、地球、さらには宇宙へと、鑑賞者の空間認識に応じて無限にひろがります。鑑賞者のまなざしは画中の空間にさそわれ、能動的にそのひろがりを捉えた瞬間、まるで絵画空間の「中」と「外」との境界をみずからの感覚で自由に通り抜けていくかのように没入していきます。
「絵画の構成要素を抽出し、絵画空間と展示空間をいかに呼応させる事ができるのか」という角鹿の問いかけが示すように、彼女の絵画は描く意図にとらわれることなく、余白を洗練させ、空間そのものをみたてます。また北園も同様に、白紙に文字を記すことで視覚詩として自立させ、文学的意味の束縛から詩を解き放ち、何も書かれていない余白に無限のひろがりをもたらしています。この両者は、私たちに作者の意図や感情に依存する場所を用意することなく、純粋に空間との対峙を働きかけてきます。
春の花見は、私たちの空間認識を木々の枝先に咲く花々へとひろげ、陽気な誘いによって心をおどらせる詩情は、世界の輪郭をいっそう輝かせます。角鹿の絵画もまた、視覚体験をとおして、私たちが日常に無自覚に受け入れてきた空間に、おろしたての感情の帳をひろげてくれるのではないでしょうか。
Mariko Tsunoka | 角鹿万梨子
1985年愛知県生まれ。2008年愛知県立芸術大学を卒業、2009年に渡独、2016年にニュルンベルク造形美術アカデミー卒業、Prof.Susanne Kühnの元でマイスターシューラー称号取得。2014年〜2015年ウィーン造形美術アカデミーにErasmus奨学金を得て交換留学。絵画の構造、主に絵画の二次元性と三次元性、空間をテーマに実験的に制作。2019年に作品集「MARIKO TSUNOKA」を刊行。近年の主な展覧会2024年「o.T.」(GalleryN神田社宅、東京)、2021年「TRY TO BE MORE STUPID」 Forum Kunst Rottweil(ロットヴァイル・ドイツ)、「Raum für Raum -JUNGE KÜNSTLER*INNEN AUS DER METROPOLREGION-」Kunstmuseum Erlangen (エアランゲン・ドイツ)などがある。
SUCHSIZE 2025 spring「INNER in INNER」
出展作家:角鹿万梨子会期:2025年5月9日(金)〜6月28日(土)のうちの金・土曜
※日〜木曜はアポイント制。訪問日時をCONTACTフォームより送信会場:SUCHSIZE
時間:13:00〜18:00
料金:入場無料
主催:SUCHSIZE
助成:大阪市角鹿万梨子トークイベント
日時:6月28日(土)16:00〜17:30
会場:SUCHSIZE
料金:入場無料 ※先着15名
大阪市西成区山王1-6-20