
九条のシネ・ヌーヴォにて、2025年7月26日(土)から7週間にわたり、「戦後80年記念 決定版! 日本の戦争映画史」が開催される。
世界で唯一の被爆国・日本では、未曾有の原爆被害の作品から、戦場はもとより銃後の悲劇を描いた戦争映画の数々がつくられてきた。そのテーマは、戦争の悲劇、戦争スペクタクル大作、アジア侵略への反省・謝罪を描いた作品などさまざまだが、「戦争を繰り返してはならない」という想いは一貫している。
戦後80年となる今夏に開催される本企画では、戦争映画を8つのジャンルに分け、問題作・娯楽大作を含め40作品を一挙上映。特に、国家統制により自由に映画が作れなかった時代に、ひたすら戦争を賛美するために作られた「戦意昂揚映画」の数々や、被爆から8年後の広島で、被爆者も含む延べ約9万人の市民がエキストラとして参加し撮影された『ひろしま』ほか広島・長崎の被爆を描いた作品群、特攻隊の生還者である須崎勝彌が脚本を手がけた3作品など、戦争体験者ならではの作品が多数ラインナップされている点に注目だ。
戦争を題材にした作品を40本も一挙上映するのは、フィルム代など経費も膨大になり非常に厳しいが、こういう時代だからこそ、先達たちが撮った「戦争映画」の数々の上映を決めたと、本企画の主催者であるシネ・ヌーヴォは表明している。
世界中で戦争が頻発し、日本でも戦争の惨禍を忘れたような言説が口にされるようになってしまった今、戦争映画を観ることで、それを製作した人々の想いに心を寄せたい。
上映作品
<戦意昂揚映画>
『五人の斥候兵』(1938年/監督・原作:田坂具隆)
日中戦争の最前線、敵陣偵察の指令を受け選ばれた5 人の斥候兵たちの相貌と友情を細やかに描き出す戦意昂揚映画。しかし、疲弊した兵隊たちなど、あたかも反戦映画の面持ちも。『ハワイ・マレー沖海戦』(1942年/監督・脚本:山本嘉次郎)
太平洋戦争の開戦を祝うため、海軍の後援で製作された国策映画。海軍飛行兵に志願した少年が軍人として成長する姿を軸に、ハワイ真珠湾への奇襲とマレー半島沖での英軍艦隊への攻撃を描く。『マレー戦記・進撃の記録』(1942年/撮影:山下兵団報道班員・亀山松太郎、日本映画社特派員)
日本軍の英領マレー及びシンガポール進攻作戦を描くドキュメンタリー。有名な山下奉文・パーシバル会談など貴重な記録。『サヨンの鐘』(1943年/監督:清水宏)
清水が当時の植民地・台湾で満映のスター・李香蘭を主演に撮った国策映画。主要登場人物はすべて日本人俳優が演じ、現地のタイヤル族住民がエキストラとして出演。『陸軍』(1944年/監督:木下惠介)
太平洋戦争3 周年記念で作られた大作。火野葦平原作をもとに、幕末から日清・日露の両戦争を経て上海事変に至る60年あまりを、ある家族の3代にわたる姿を通して描く。ラストシーンでは出征する息子を延々と追いかける母の悲痛な思いを描き“軍国の母”の真の想いを吐露。『桃太郎 海の神兵』(1945年/監督・脚本・撮影:瀬尾光世)
海軍省の命令で子どもたちに向けて戦意昂揚を目的に製作された日本初の長編アニメーション大作。戦争末期、瀬尾は1 週間の体験入隊を行い綿密な取材で映画化。<広島・長崎>
『ひろしま』(1953年/監督:関川秀雄)
被爆から8年後の広島で、原爆が投下された直後の惨状を再現した名編。被爆者も含む延べ約9 万人がエキストラとして参加。原爆投下後の圧倒的な群衆シーンの迫力は、広島県民の協力なくしてはあり得なかった。『TOMORROW 明日』(1988年/監督・脚本:黒木和雄)
長崎の原爆投下までの市井の人々の24時間。南果歩の結婚式から、桃井かおり、仙道敦子の三姉妹の「初夜」「出産」「恋人との別れ」を、喪失した爆心地から半径2キロ以内を舞台に描く。『黒い雨』(1989年/監督・脚本:今村昌平)
井伏鱒二原作をもとに、原爆被爆者の悲劇を庶民の生活を通して淡々と綴った力作。被爆症や戦争の後遺症に苦しむ人々を見つめながら、戦争への怒りを静かに表現しつつ、生きる切なさを暖かく描く。『父と暮せば』(2004年/監督・脚本:黒木和雄)
長崎原爆をみつめた黒木が、続いて広島原爆をテーマに描いた傑作。井上ひさしの傑作戯曲「父と暮せば」の映画化。宮沢りえの演技が素晴らしく映画賞を独占。<“特攻隊の生還者”須崎勝彌脚本作品>
『あゝ零戦』(1965年/監督:村山三男)
太平洋戦争下、華々しい戦果を挙げ、若者たちが憧れた戦闘機「零戦」だが、次第に戦闘爆撃機として特攻に使われるようになっていった…。須崎勝彌が自らの体験を交え脚色。『太平洋奇跡の作戦 キスカ』(1965年/監督:丸山誠治)
敵の目を晦まし、幾多の困難を乗り越え、守備隊5000名の奇跡の救出劇を遂げた日本海軍のキスカ島撤退作戦を描く。『南十字星』(1982年/監督:丸山誠治、ピーター・マックスウェル)
太平洋戦争中、日本の統治下にあったシンガポールを舞台に、日本軍の通訳官と捕虜のオーストラリア兵の友情を描いた、もうひとつの「戦場のメリークリスマス」。<破滅への道「二・二六事件」>
『二・二六事件 脱出』(1962年/監督:小林恒夫)
「二・二六事件」を将校の側から描くのではなく、逃げおおせる首相の脱出劇として息づまる一触即発の危機の連続から描いた、手に汗握る傑作サスペンス。『激動の昭和史 軍閥』(1970年/監督:堀川弘通)
記録フィルムを随所に挿入し、「軍閥」と呼ばれる軍上層部のグループが力を持つに至り、日本が戦禍の渦に呑みこまれていく過程を描く、東宝オールスター超大作。『動乱』第1部「海峡を渡る愛」 第2部「雪降り止まず」(1980年/監督:森谷司郎)
高倉健と吉永小百合が初共演を果たし、軍部が台頭する五・一五事件から二・二六事件までの激動の時代を背景に、寡黙な青年将校とその妻の愛と生きざまを2部構成で描いた超大作。<東宝特撮戦争映画>
特撮を円谷英二が担い、一世を風靡した東宝の戦争映画。『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』(1960年/監督:松林宗恵)
ハワイ真珠湾奇襲からミッドウェイ海戦までを東宝オールスターで描く超大作。奇襲攻撃から日本軍がひた隠しにした海戦の敗北を、若き海軍兵の北見中尉(夏木陽介)の視点から描く。『日本海大海戦』(1969年/監督:丸山誠治)
日露戦争開戦から乃木希典(笠智衆)による旅順攻略、日本海海戦における東郷平八郎(三船敏郎)率いる連合艦隊が、世界最強のロシアのバルチック艦隊を撃破するまでを描く戦争スペクタクル巨編。円谷英二の最後の特撮映画。『連合艦隊』(1981年/監督:松林宗恵)
連合艦隊による真珠湾攻撃の成功から、ミッドウェイ海戦とレイテ沖海戦の敗北を経て、戦艦大和の最期までを、銃後の2家族の物語を交え描いた戦争大作。<巨匠たちの戦争映画>
『戦争と平和』(1947年/監督:山本薩夫、亀井文夫)
中国での抑留を経て復員した山本と、戦時中に記録映画を手がけてきた亀井との共同監督作品。戦後2年目の焼け野原の東京で撮影。占領軍による検閲で30分以上が削除。『風の中の牝雞』(1948年/監督・脚本:小津安二郎)
小津の復員後第2作。夫の復員を待つ妻が生活に困窮、幼子の急病と入院のためにやむを得ず身を売って…。夫婦の心情的危機をシリアスに描ききった小津の異色作。『また逢う日まで』(1950年/監督:今井正)
ロマン・ロランの原作をベースに、戦争によって引き裂かれる若いふたりの純愛を描いた今井正の代表作。昭和18年、空襲警報の鳴り渡る地下鉄のホームで出会った学生と貧しい女性画家の悲恋。『壁あつき部屋』(1956年/監督:小林正樹)
対米感情の配慮から3年間も公開を見送られた問題作。無実でありながらBC級戦犯として投獄された戦争犠牲者の手記を、当時「壁」で芥川賞を受賞したばかりの安部公房が脚色。『あゝ声なき友』(1972年/監督:今井正)
原作を映画化しようと渥美清が独立プロを設立し執念の映画化。渥美の思いに応え、たくさんの俳優たちが大挙出演。全滅した部隊で唯一生き残った男(渥美)が、亡くなった戦友たちの12通の遺書を届けるべく旅に出る。『ひめゆりの塔』(1982年/監督:今井正)
太平洋戦争末期、地上戦になった沖縄で、見習い看護師「ひめゆり隊」として最前線に動員され、無残な死を遂げた女学生たちを描く。今井が監督し大ヒットした前作(53年)を自らリメイク。前作では占領下で撮影出来なかった沖縄で渾身のロケ。『東京裁判』(1983→2018年/監督・脚本:小林正樹)
極東国際軍事裁判の全貌を描いた大長編ドキュメンタリー映画。アメリカ国防省が第二次世界大戦の記録として撮影、所蔵していた膨大なフィルムをもとに、小林が五年もの歳月をかけて完成させた情熱と執念の大作。『八月の狂詩曲(ラプソディー)』(1991年/監督・脚本:黒澤明)
80歳を迎えた名匠・黒澤明が村田喜代子の芥川賞受賞作を自ら脚色した29本目の監督作品。長崎近郊の村を舞台に、かつて原爆の恐怖を体験した祖母と孫たちのひと夏を描く。<多彩な戦争映画の数々>
『二等兵物語 女と兵隊・蚤と兵隊』(1955年/監督:福田晴一)
伴淳三郎と花菱アチャコのコンビによる二等兵物語シリーズ第1作。帝国軍隊という厳しく不条理な世界で中年二等兵が巻きおこす悲喜劇。『人間魚雷出撃す』(1956年/監督・脚本:古川卓巳)
昭和20年7月、瀬戸内海の特別基地で特攻隊員たちは人間魚雷「回天」の訓練を終え、森雅之の指揮する潜水艦伊号五八で出撃するが…。石原裕次郎たち日活スターが大挙して出演した群像戦争青春映画。『硫黄島(いおうとう)』(1959年/監督:宇野重吉)
玉砕した孤島での戦争の悪夢に苦しむ男の数奇な運命を通して、忘れ去られようとする戦争の非人間性を描く異色戦争巨篇。菊村到の芥川賞受賞作を、名優の宇野重吉が自らの戦争体験も重ね映画化した名編。『零戦黒雲一家』(1962年/監督・脚本:舛田利雄)
戦争アクション映画も数多く製作されたが、監督・舛田、主演・石原裕次郎のとっておきの痛快作。太平洋戦争末期、ソロモン群島の小島に孤立した零戦部隊に着任した中尉が、海千山千のならず者ぞろいの連隊をまとめ、大空狭しと暴れまくる痛快航空アクション。『戦場にながれる歌』(1965年/監督・脚本:松山善三)
大戦末期に陸軍戸山学校軍楽隊に入隊した若者たちが、猛訓練の末に演奏できるまでになるも、銃の扱いかたも知らないうちに激戦の北支戦線に送りだされて…。作曲家・團伊玖磨が自らの戦場体験を綴った随想を下敷きに松山善三が脚色、演出。『春婦伝』(1965年/監督:鈴木清順)
第二次大戦下の中国北部で、一人の兵士に恋をした慰安婦の一途な姿を描く。池部良、山口淑子が主演した『暁の脱走』(1950年、谷口千吉監督)を、鈴木清順監督が川地民夫、野川由美子でリメイク。『サンダカン八番娼館 望郷』(1974年/監督・脚本:熊井啓)
戦前、日本軍が侵略した地域に必ず作られていた娼館。天草の貧しい家に生まれ少女の頃にボルネオに娼婦として売られ、戦後に帰国して、ひとり極貧の中に老残の身で生きる元 “からゆきさん”を田中絹代が演じた。<創られ続ける戦争映画の数々>
戦争を体験していない世代が作る戦争映画。『ゆきゆきて、神軍』(1987年/監督・撮影:原一男)
太平洋戦争の飢餓地獄と化したニューギニア戦線で生き残り、「神軍平等兵」として慰
霊と戦争責任の追及を続けた奥崎謙三の破天荒な言動を追った衝撃のドキュメンタリー。『スパイ・ゾルゲ』(2003年/監督・原作・脚本:篠田正浩)
太平洋戦争直前の日本を舞台に、ロシア人スパイ、リヒャルト・ゾルゲの姿を通して、激動する時代を描いた歴史サスペンス大作。3月死去した篠田の追悼上映。『火垂るの墓』(実写版)(2008年/監督:日向寺太郎)
スタジオジブリの名作アニメ映画を実写映画化。2006 年に亡くなった黒木和雄監督が実写映画化したいと企画していたのを弟子の日向寺が意志を継ぎ執念の映画化。14歳の清太と幼い妹・節子のあまりに過酷な運命を描く。『野火』(2014年/監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也)
第二次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島を舞台に、野戦病院を追い出され、さまよう日本軍兵士の姿を追う。1959年に市川崑により映画化された大岡昇平の同名小説を戦後70年を機に塚本晋也が監督・脚本・製作・主演で再び映画化。『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(2019年/監督・脚本:大林宣彦)
尾道にある海辺の映画館の閉館の日、3人の若者が戦争映画特集を見ていたところ、突如劇場に稲妻の閃光が走り、3人は、戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島と、スクリーンの世界へとタイムリープ。そこで出会った移動劇団『桜隊』を救うため、運命を変えようと奔走する。最期まで平和を願った大林宣彦の遺作。特別上映
『Yokosuka1953』(2021年/監督・撮影・編集:木川剛志)
1947年、神奈川県横須賀市で外国人と思われる父と日本人の母・信子の間に生まれたバーバラさんは、5歳の時に母と別れて養子縁組で渡米し66年が経った。映像作家・木川剛志の元に寄せられたSNS のメッセージが縁となり、戦後の歴史の波に翻弄された混血孤児の数奇な運命をたどるドキュメンタリー。
2025シネ・ヌーヴォ日本映画大回顧展
戦後80年記念 決定版! 日本の戦争映画史日程:2025年7月26日(土)〜9月12日(金)
※上映スケジュールは劇場Webサイト参照会場:シネ・ヌーヴォ
料金:一般1,600円、シニア1,300円、会員・学生1,200円、ハンディキャップ・高校生以下1,000円 ※回数券あり
主催:シネ・ヌーヴォ、日本映画大回顧展上映実行委員会
助成:芸術文化振興基金
協力:一般社団法人 大阪自由大学、大阪アジアン映画祭
大阪市西区九条1-20-24