
浮遊するparticle(粒子)は曖昧な像を結び、「見る」ことを問いかける―
2025年最注目の作家、上田佳奈ギャラリーノマル初個展上田佳奈は、「版」を通じて写しと実像の間に生じるわずかなズレや曖昧さに着目し、知覚や認識のあり方を問い直す作品を制作してきた作家です。
兵庫県に生まれ、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズでファッションデザインを学んだ後、大阪美術専門学校で版画を履修。以来、版画を中心に写真や映像も手がけながら、関西を拠点に各地で精力的に発表を続け、評価を高めてきました。今年2025年には、「第4回PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ」で大賞を受賞。今最も期待される若手作家の一人として注目を集めています。ノマルでは、2020年の若手公募展「U30 – Whom do you suspect?」に初参加。その後3度のグループ展を経て、本展が上田にとってノマル初個展となります。今展の中心となるのは、「particle」と「#illusion #幻影」という二つのシリーズです。
「particle」シリーズでは、点の集合による印刷技術と、あらゆる存在が粒子でできているという科学的視点から、肖像というモチーフに新たな意味を与えています。ミクロな単位の積層がマクロな像を形づくるその構造は、私たちの世界への眼差しを問い直します。
一方の「#illusion #幻影」は、SNS上で読み込み中に表示されるぼやけた画像に着想を得たシリーズです。不安定な通信環境下で一瞬だけ現れる曖昧なイメージを、シルクスクリーンで粗い網点として定着させた作品群は、個人的な投影を許容する“鏡”のように、見る者の記憶や感情を呼び起こします。いずれのシリーズも、上田が一貫して追求してきた「見る」行為と「写す」技法、そしてそこに潜む不確かさへの問いから生まれたものです。さらに本展では、ノマルの工房と初めてコラボレーションした版画作品も発表予定。「版」への新しいアプローチをご覧いただきます。
我々の知覚そのものに新たな問いを投げかける、ノマルでの上田佳奈の試み。多くの方が驚愕と感動を覚えることを確信しています。ご高覧のほど、よろしくお願いいたします。
(ギャラリーノマル)
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作家コメント
子どものころ、建築図面にならって、教室にいる自分を真上から描くという授業があった。幽体離脱するように身体から抜け出して空間を俯瞰することで、それまで当たり前だった日常の見え方が一変したのをよく覚えている。授業が終わったあとも、「この瞬間を上空から見たら、どう映るだろう」と、ふと考えることがあった。それは、世界の見え方に唯一の正解がないことに気づかせてくれた、私にとっての原体験だったように思う。
似たような驚きは、あらゆる物質が粒子でできていると知ったときにもあった。観察するレンズやフレームを変えるだけで、世界はまったく異なる姿を見せる。ひと続きに見えるものも、実際には無数の断片や層が折り重なり、入れ子状に構成されている。こうした感覚は、のちに版画という技法と出会うことで、より実感をもって理解できるようになった。
版画では、イメージを版に写し取る過程で細部が失われたり、意図せず書き換えられたりすることがある。さらに、同じ版を用いても、刷りの条件によって像がわずかに揺らぐ。粒子レベルで考えれば、完全な複製などそもそも成立しないと言えるだろう。
こうした考え方は、版画だけでなく、日常で私たちが行っている「ものの見方」にも通じているように思う。私たちは、外界からの信号や情報、言葉や概念などを、あたかも固定されて確かなものであり、等しくコピーや交換が可能なもののように扱っている。しかし実際には、知覚する側とされる側、送り手と受け手との関係性によって、ものごとの現れ方は絶えず変化する。私たちが「見えた」「わかった」と感じるそのものごとも、主体と客体のあいだに一時的に立ち現れる現象にすぎず、その背後には、選ばれなかった無数の可能性が静かに漂っている。
本展示で紹介する2つのシリーズ「particle」と「#illusion #幻影」は、それぞれ異なる出発点を持ちながらも、前代表の林さんから「本質的なところでつながっているのでは」と見出してくださったことをきっかけに、並置して展示することになった。視点の転換は、いつも外との接触によって引き起こされる。
粒子と全体、ミクロとマクロ、記号と意味──そのあわいを行き来することで、焦点がやわらかくほどけ、世界の見え方に新たな広がりが生まれればと思う。
上田 佳奈 Kana Ueda
会期:2025年8月2日(土)〜9月6日(土)
会場:Gallery Nomart
時間:13:00~19:00
休廊:日曜・祝日、8月10日(日)〜14日(木)
Gallery Talk & Opening Party
日時:8月2日(土)18:00〜
予約・料金とも不要Closing Live “particle”
日時:9月6日(土)19:00開場、19:30開演
出演: sara (.es) x 宇都宮泰
料金:前売2,500円、当日3,000円
定員:30名 ※予約制。申込はこちらから
大阪市城東区永田3-5-22