2026年4月25日(土)より大阪中之島美術館にて好評開催中の展覧会「驚異の部屋の私たち、消滅せよ。— 森村泰昌・ヤノベケンジ・やなぎみわ —」。関西を拠点に国際的に活躍する3人の作家による作品世界がぶつかり合う本展のエピローグとして、展覧会ができるまでの2年間を記録するドキュメンタリー映像が上映されている。手がけたのは、映像作家の林勇気さん。3人の作家それぞれの制作現場や言葉に、どのようなまなざしで向き合い、何を映像として残そうとしたのか。メールでインタビューを行った。
——出展作家3人の語りを通して展覧会の裏側が垣間見えるような大変貴重な映像でした。映像のコンセプト、どのような経緯で方針が決まっていったかなど、制作秘話について聞かせてください。
展覧会をつくるためのミーティングは、2年にわたり月1回以上行われ、1回あたり3時間から長いときで6時間以上に及びました。それらを記録するために、カメラの数も多いときで5カメ、加えて音声でも録音していたので、非常に膨大な量の映像と音声の素材が存在します。それらをもとに映像を制作しました。
はじめは大阪中之島美術館の学芸員さんがミーティングを撮影しており、その映像を生かして展覧会に至るプロセスがわかるドキュメンタリー映像を制作できないか、という話になりました。そこで、有り難いことに、美術館から私の名前があがって。森村さんが私の過去作品をご覧くださった上で、プレゼンを経て、記録映像担当として参加することになりました。
オーソドックスなドキュメンタリーや展覧会の裏側を紹介する映像もつくることはできる。でも、すでに撮影されていたミーティングの記録映像に目を通し、実際にみなさんのミーティングに参加するなかで、求められているのは作家性を反映したドキュメンタリー映像だという結論に至りました。
そこで、森村さん、ヤノベさん、やなぎさんそれぞれの語りを生かすことを映像の主軸にすることを決めました。長期間にわたり行われたミーティング、内容が二転三転していく過程、3人で展覧会をする意味、タイトルである「驚異の部屋」や「消滅美術館」の背景が伝わる語りをピックアップしています。同時に、展覧会のコンセプトや要素を映像そのもののイメージで表現することも試みました。
——林さんご自身も大阪を拠点に活躍されておられるアーティストのおひとりで、これまでも世界的に活躍されるさまざまなアーティストのプロジェクトや制作にご一緒されてきています。映像という媒体を通じてアーティストの制作過程を捉えることについて、これまで印象に残っているエピソードや発見があれば教えてください。
映像という媒体を通して、さまざまな関わり方をさせていただきました。たとえば、コンサートやライブで音楽の世界観を映像で表現したり、絵を動かして映像作品にしたり、映像作品をアーカイブとしてまとめたり、映像の修復(再制作)をお手伝いしたり、映画の編集をさせてもらったり。映像に携わっているからこそ、さまざまな関係をもつことができました。プロジェクトごとに求められる立ち位置が変わるので、作家の意図と表現を汲み取りながら、できる限りのことをしてきました。
以前、中辻悦子さんの名作絵本『よるのようちえん』の映像作品を制作したことがありました。そこで、中辻さんのご紹介で、谷川俊太郎さんに朗読をお願いすることになり、お手紙とお電話でやりとりさせていただいて。10代前半の頃に父から、谷川俊太郎さんの『二十億光年の孤独』をもらい、心に残った1冊となり、そこから詩に触れる機会を得ました。谷川さんにはじめてお電話をしたときは、少し緊張すると同時に、さまざまな媒体でお聞きしていた声を聞くことができ、静かに感動したことを覚えています。『よるのようちえん』をよいかたちで映像作品にすることができたので、また何かの際に上映できたらいいなと考えています。
さまざまな作家と関わらせてもらうなかで、多くの方が、他者の時間を含めて、時間を大切にされているなと感じました。与えられた猶予に対して時間のリミットまで、クオリティを上げるために構想したり、作品を制作されている一方で、締切を守る、遅刻をしない、を徹底されている方がほとんどでした。ごく稀にそうでない方もおられますが、生み出される作品が非常によいので、それはそれで作家的だなと感慨を覚えたこともあります。いろいろなスタンスの作家がいて、面白いです。私自身、残された時間を考えると、時間より大切なものはないと痛感しています。
——力強い言葉が印象的なお三方ですが、特に印象に残っている言葉や風景があれば教えてください。
まず、ミーティングで交わされる会話に思索とユーモア、エッジがあって、非常に面白かったです。それ自体が、深夜のラジオ番組を聴いている(見ている)ようでした。普段は穏やかに対話されていますが、時折摩擦が起きる瞬間もあり、そのひりひりした緊張感や空気感は印象に残っています。年末、ミーティング後にみなさんとホールケーキを切って食べたのも忘れられない風景です。
森村さん、やなぎさん、ヤノベさんが、それぞれ過去の歴史や美術史と、現在の日本も含む世界情勢と接続しながら、各々の作品や展覧会について語られていたのが印象的でした。たとえば森村さんは、大きな流れに乗ってしまう多くの人々のこと、「消滅美術館」の背景にある第二次世界大戦時に作品を疎開させて空になったエルミタージュ美術館のことを。ヤノベさんは、原発事故とアトムスーツから、コロナ禍と政情不安と関連する《シップスキャット》に至る過程を。やなぎさんは、現在戦渦にある美術館や失われた(失われつつある)ものへの想いを、それぞれの言葉で語られていました。各作家の言葉が交わらず並行することもあれば、一方でどこかでつながっていくこともあり、そこに味わい深さを感じました。
ドキュメンタリー映像には使用していませんが、私が制作者の候補に挙がった際、ヤノベさんが「林くんはサラリーマンみたいな人やったな」というようなことをおっしゃっていて。ちょうどその記録を観たのが移動中だったこともあり、思わず電車内で笑ってしまいました。私はステレオタイプな作家像に対して、あえて距離を置くようにしていて、あえて作家らしからぬ服装で、そのように行動しています。そのあたりがヤノベさんに伝わっていたらいいなと思っています(笑)。
——強烈な個性をもつお三方を追うなかで、難しかったこと・難航したことなどあれば教えてください。
私からの投げかけやインタビューでの問いかけに対して、みなさん非常に丁寧にフラットに接してくださったので、接する上での難しさはありませんでした。ただ、みなさん非常にご多忙で、取材のスケジュール調整には難航しました。
——作家ご本人からは、どのような反応がありましたか?
展覧会がはじまる前、はじまってからも非常に慌ただしいご様子で、きっちりとしたフィードバックはあまりいただけていません。ただ、人づてに「よかった」とおっしゃっていたと聞きました。ヤノベさんはすれ違いざまに「よかったで」と声をかけてくださいました。やなぎさん、森村さんが、当初の予定になかった「消滅美術館」の記録映像制作も新たにご依頼くださったので、一定の評価はいただけたのかなと思い、ほっとしています。
——お三方から託されたなと感じたこと、あるいは、これから挑戦してみたいなと思ったことがあれば聞かせてください。
記者会見で森村さんが「あとは、若い世代の林さんに」とおっしゃってくださり、大変光栄で背筋が伸びる想いでした。取材時にみなさんの仕事ぶりを拝見していると、制作に対する凄まじい熱量と、美術や社会に対する強い批評性をもって活動をされています。あわせて、ご自身の表現を更新し続けている様子にとても刺激を受けました。表現におけるある種の過剰性は私自身ももっているので、共感できる部分もあり、森村さんの言葉を糧にこつこつ頑張っていこうと考えています。今後は、これまでの自分の制作の軸にあるものと接続しながら、さまざまな作家のドキュメンタリー制作にもチャレンジしていきたいです。
——林さんご自身も「i WANT YOU あなたがほしい」として、デザイナーの後藤哲也さんやアーティストの植松琢磨さん、キュレーターの小林公さんとのコラボレーションを続けておられると思います。自分たちの世代との違い、あるいは、通底する姿勢など気づいたことがあれば教えてください!
ディスカッションを重ねて展覧会をつくるプロセスは、似ている部分もあるかなと思いました。ただ、私たちは展覧会の内容について直接的に話をすることはあまりなく、大体はその周囲のことや、その時々に関心のあることを主に話しています。「i WANT YOU あなたがほしい」のメンバーは作家だけではないので、バランスのよさがあるのかなと考えています。だいたい後藤さんが主導し、植松くんがディスカッションの中心になって、小林さんがそれらをまとめて方向性を示す、というようなかたちです。私は少し引いた位置からその様子を見ています。
大きな違いは、ミーティングの回数と1回あたりの時間でしょうか。私たちは1回1〜2時間くらい、飲食をしつつゆるやかに対話をしていました。展覧会の規模の差もありますが、本展のミーティングはいつも休みなく、会議室で3〜5時間程度に及んでいました。そして、ある程度、明確になった展示内容が、次のミーティングではまったく別の内容になることも何度かあり、内容の試行錯誤の振幅の大きさも違う点でした。ミーティングに参加しはじめた頃は、状況を把握するのに時間がかかりました。森村さん、ヤノベさん、やなぎさんが、これだけ時間を使って展覧会を紡がれている様子には、心動かされるものがありました。
——展覧会が生まれるまでの紆余曲折を伴走されたお立場から、今回の展覧会の見どころ、映像の楽しみ方があれば教えてください。
膨大な時間を要して実現した展覧会で、力強い作品が数多く展示されています。それらの背景にあることに想いを巡らせながら鑑賞していただきたいです。各作家の過去の作品や文章、言葉に触れると、見え方が変わってきます。私の映像も、その部分で貢献できているはずです。じっくり鑑賞すると4〜5時間は必要な展覧会なので、ぜひ時間をつくってご覧ください。
映像作家。膨大な量の写真をコンピューターに取り込み、切り抜き重ね合わせることでアニメーションを制作。自ら撮影した写真のほか、人々から提供された写真やインタビューを素材とした制作により、デジタル・メディアやインターネットを介して行われる現代的なコミュニケーションや記憶のあり方を問い直す。近年は他領域とのコラボレーションや、ワークショップを通した作品制作も多数試み、映像が内包する拡張性や協働的な側面について模索している。
近年の個展に「君はいつだって世界の入り口を探していた」(クリエイティブセンター大阪/大阪、2022年)、「景色と映画の向こう側」(イメージフォーラム/東京、2024年)、「灯をみる」(Gallery PARC/京都、2024年)、「映/像」(豊中市立文化芸術センター/大阪、2026年)。グループ展に「オーバーハウゼン国際短編映画祭」(オーバーハウゼン、ドイツ2021年)、「テールズアウト」(大阪中之島美術館/大阪、2022年)、「2023年コレクション展I 虚実のあわい」(兵庫県立美術館/兵庫、2023年)、「特別展 境界をこえる」(徳島県立近代美術館/徳島、2023年)、「恵比寿映像祭 2025 Docs -これはイメージです-」(東京都写真美術館/東京、2025年)など。
驚異の部屋の私たち、消滅せよ。 — 森村泰昌・ヤノベケンジ・やなぎみわ —
会期:2026年4月25日(土)〜7月20日(月・祝)
会場:大阪中之島美術館 5階展示室
時間 :10:00〜17:00(入場は16:30まで)
休館:月曜 ※7月20日(月・祝)は開館
観覧料:一般 1,900円、高大生 1,300円、小中生 500円
関連イベント
開幕記念 作家鼎談 驚異のアーティストトーク【終了】
「なぜこの3人なのか」。作家から始まったこの展覧会の経緯、裏側を作家自ら語る。
日時:4月25日(土)14:00〜15:30(開場13:30)
会場:大阪中之島美術館 1階ホール
登壇:森村泰昌、ヤノベケンジ、やなぎみわ
料金:参加無料、ただし本展観覧券(利用後の半券可)が必要
定員:150名(先着順、事前申込不要)ヤノベケンジ 猫之島美術館 ―宇宙猫アトリエ臨時公開記録【終了】
日時:4月28日(火)〜5月7日(木) 10:00〜17:00 ※最終日(5月7日)のみ12:00まで
会場:⼤阪中之島美術館 2階芝生広場
料金:参加無料ヤノベケンジ アートゲーム SHIP’S CATの⼤冒険 公開記念イベント【終了】
日時:5⽉2⽇(⼟)第1部(トークイベント)14:00〜15:00、第2部(ゲームエキシビジョン)15:15〜16:00、第3部(サイン会)16:00〜
会場:⼤阪中之島美術館 1階ホール
料金:参加無料、ただし本展観覧券(利用後の半券可)が必要
定員:150名(先着順、事前申込不要)舞台公演「⻩泉平坂 〜排斥と遊戯〜」【終了】
日時:5月28日(木)17:30開演、5月29日(金)14:00開演/17:30開演、5月30日(土)11:00開演/17:30開演
※公演時間は60分
会場:大阪中之島美術館 1階ホール
作・演出:やなぎみわ
出演:安田登(下掛宝生流ワキ方能楽師)、渡邉尚(身体研究家・サーカスアーティスト)、金沢霞(琵琶奏者)
料金:4,000円 ※ローソンチケットにて販売(Lコード:52954)
定員:140名森村泰昌連続レクチャー「驚異」のための美術教室【終了】
日時:6⽉6⽇(⼟) 、20日(土)、27日(土)、7⽉4⽇(⼟)各回14:00〜15:00
会場:⼤阪中之島美術館 1階ワークショップルーム
料金:参加無料、ただし本展観覧券(利用後の半券可)が必要
定員:40名
※事前申込制。5⽉7⽇(⽊)より⼤阪中之島美術館公式サイトにて申込受付主催:大阪中之島美術館、読売新聞社
問合:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
大阪中之島美術館
大阪市北区中之島4-3-1




























