KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭は、新体制となった2020年度から、従来の鑑賞型のプログラムとは異なるリサーチ型のプログラムとして、新たに「Kansai Studies」をスタートさせた。アーティストが中心となり、地域住民やプロデューサー、研究者と一緒に、KYOTO EXPERIMENTが立脚する地域、すなわち京都からゆるやかに範囲を広げ、関西についてリサーチするプロジェクトだ。リサーチを通じて生まれた思考やプロセスは特設ウェブサイトに記録され、未来のクリエイターや企画のためのアイデアソースとなることを目指している。
第1期(2020-2022)の参加アーティストは大阪を拠点とする建築家ユニット dot architectsと、京都を拠点にする演出家・和田ながら。
Kansai Studiesの初年度(2020年)のテーマは「水と琵琶湖」。2年目(2021年)は水の恵みである食事に着目し、関西になじみの深い「お好み焼き」を調査。3年目(2022年)の今期は、「循環」へと視野を広げリサーチを続けてきた。その過程や内容はKansai StudiesのWebサイトに随時アップされていき、それ自体が興味深いコンテンツとなっている。そして、このリサーチの集大成として、《うみからよどみ、おうみへバック往来》という演劇作品が誕生した。



金属の細い棒がたくさん立てられた舞台空間(棒同士の絶妙なバランスによって立っている構造であるという)で、大阪湾~淀川~琵琶湖の導線を会話劇と演者たちの所作がつくっていく。そのプロセスは、公演終了後のアフタートークで上っていた「ジオグラフィカル演劇」という言葉がしっくりくるもので、関西という大きな括りの土地を「水」によってつなげていく豊かなアプローチだった。


作品のなかで特徴的だったのが、リサーチ主体の擬人化である。「水と琵琶湖」のリサーチ結果と思われる西野水道、百瀬川隧道、天ヶ瀬ダムが、「橋やダムが無くなるのを悲しむ人」によって描写される演劇を我々は「予想」してしまうが、本作では橋やダム自身が自らの解体を語りだす。彼らが悲しみ、泣くシーンの新鮮さだけではない、無生物が感情を表すことへの強烈なギャップ。また、舞台には、お好み焼きも登場人物として現れる(実際にお好み焼きが焼かれる演出も、その匂いによって存在感を引き立たせる)。これまでのリサーチで出会った人や話を聞いた人など、そこに住み、それを食べて生きる人の感情もあわせて知りたいという気持ちも同時に起こったが、そのユニークな切り取り方には目を奪われる。リサーチ主体であるからこその、歴史背景に基づいたリアルな側面と、dot architectsと和田の解釈が為す表現が、演劇のなかに共存しているのを面白く観た。俳優陣のもっとダイナミックな動きも観たかったというとすこし欲張りだろうか。



公演の終盤では、dot architectsが金属の棒による構造にさまざまな物をひっかけたり、チェーンソーをもって木片を切ったり、そこにまちをつくるような行為が繰り広げられる。その「建築」は、先の琵琶湖・淀川治水の歴史と大きく関わる西野水道、百瀬川隧道、天ヶ瀬ダムのスクラップ後にいそいそとビルドされているように見えてしまい、すこし暗い気分にもなった。しかし、最後にこの場所で江州音頭が踊られ、締められたのを観て、dot architectsはこの場に祝祭空間をつくったのかとはじめて気づいた。
劇場につくられたこの「場」はまたすぐに解体され更地になるのだろうが、この新しい実験の場はまだまだ続くのだろう。
Kansai Studiesの次の展開も楽しみに待ちたい。


dot architects & 和田ながら《うみからよどみ、おうみへバック往来》
日時:2022年10月14日(金)~16日(日)
会場:京都芸術センター
共同演出:和田ながら、dot architects
出演:今村達紀、諸江翔大朗(ARCHIVES PAY)、稲森明日香(夕暮れ社 弱男ユニット)、
dot architects
舞台美術・照明デザイン:dot architects
舞台監督:十河陽平
照明:萱室はづき(RYU)
音響:瀧口翔
演出助手:neco(劇団三毛猫座)
ウェブサイト制作・ロゴデザイン・映像技術協力:松見拓也
英語資料翻訳:ウィリアム・アンドリューズ
制作:小島寛大(Bassline Arts Management)、平居香子(京都芸術センター)
リサーチメンバー:dot architects、和田ながら、今村達紀、川崎陽子、塚原悠也、
ジュリエット・礼子・ナップ
リサーチコーディネーター:岩見遙果
リサーチ協力:トム・ヴィンセント、川村のり子、勝部家の皆様、奥村繁(沖島漁業協同組合 代表理事組合会長)
関西の伝統的な船に関する知見提供:小川智彦、特定非営利活動法人わくわくする久美浜をつくる会
製作:KYOTO EXPERIMENT
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(国際芸術交流支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会、一般財団法人地域創造[Intergenerational Thinking-世代間の対話]、公益財団法人セゾン文化財団
主催:KYOTO EXPERIMENT