1970年の大阪万博(日本万国博覧会)未体験の人々が思い浮かべる大阪万博のイメージと言えば、太陽の塔やお祭り広場など、岡本太郎と丹下健三によるデザイン群ではないでしょうか? かく言う私もそのひとりです。
四天王寺の境内から天王寺駅方向へ、南に少し離れた飛び地のような場所に四天王寺庚申堂があります。低くどっしりと構えた佇まいが素晴らしく、私が好きなお堂のひとつなのですが、実はこの庚申堂本堂が大阪万博由来の建物【1】だったと数年前に知り、勝手に抱いていた大阪万博デザインのイメージとかけ離れていたためにとても驚いたものです。
前置きが長くなりましたが、このような経緯もあり、大阪の高島屋史料館にて開催されている「万博と仏教—オリエンタリズムか、それとも祈りか?」展、これはぜひ観なければ!と、さっそく早速鑑賞に行ってきました。
まずは万博・国際博覧会と国内博覧会に関する歴史年表、非常に充実したパネル展示となっており読み応え・見応えがあります。万博のような異文化のぶつかり合いの場において、特に戦前は各国による国力の誇示、現代SNS風に言うならば自国文化によるマウント合戦といった趣き。展覧会のサブタイトルに倣うならば、オリエンタリズム—東洋趣味を推し進めた結果なのでしょう。今の目線だとキッチュに写るこれらも当時としては大真面目、真剣であったであろうこともうかがえました。
このことを前提として、今回の「万博と仏教」展の中核となる、大阪万博における仏教にフォーカスした後半の展示を観ると、社会情勢を反映した万博の役割における「位相のズレ」「パラダイムシフト」のようなものが見て取れます。つまり競争ではなく協調であること、その先の世界平和。再び現代SNS風に言うならば、#(ハッシュタグ)を共通言語的(=ここでは仏教)を使って、「いいね」を広く集めて拡散されるような趣きに。
「もはや戦後ではない」とは1956年の言葉【2】だそうですが、大阪万博(テーマ「人類の進歩と調和」)がその頂点だったのではないのでしょうか? アジア初開催の万博ということでアジア圏参加国の多くが共通言語的に仏教に関連したパビリオン建設・展示を行ったそうです。そこにはもはや自国の主宗教が仏教ではなくなった国も含まれています。展覧会のサブタイトルに倣うならば、祈り—世界平和を願う信仰心を推し進めた結果なのでしょう。
「オリエンタリズムか、それとも祈りか?」、そのサブタイトルの意味も展示構成により明確になっています。
オール仏教総力戦【3】でもあった大阪万博。今回の展示は仏教由来の各国パビリオン・施設・展示物の万博終了後の行方までも追跡し、そのほとんどが解体廃棄されたなかで、大阪万博のカケラともいえる数々の現在の状況を詳細に展示していました。もちろん、先に挙げた四天王寺庚申堂もあります。
万博と仏教。個人的に興味を持っていたこともあり、充実した展覧会鑑賞となりました。
【1】 法輪閣、全日本仏教会により建設された無料休憩所
【2】 1956(昭和31)年の経済白書内のフレーズ。高度経済成長期を迎えた日本のキャッチコピー的な意味合いをもつようになりました
【3】 日本宗教連盟へ参加を打診したものの、全日本仏教会と日本キリスト教連合会の参加となり、オール宗教総力戦とはならなかったようです
会期:2023年8月5日(土)〜12月25日(月)
時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
会場:髙島屋史料館
休館:火・水曜
料金:無料主催:髙島屋史料館TOKYO
監修: 君島彩子(宗教学者、和光大学講師)
グラフィックデザイン:原田祐馬・岸木麻理子(UMA/design farm)
展示デザイン:tamari architects