クレハフーズ(寺田くれは)の「100均商品だけで食品サンプルを作ってみた展」が、此花区のシカクにて、2022年3月27日(日)〜4月17日(日)に行われた。
昨年食品サンプル職人の養成スクールを卒業した見習い職人の寺田くれはさん。食べものに感じる「かわいい」や「好き」という感覚を軸に、制作活動を行っている。100円均一の商品を用いた食品サンプルの制作をはじめたのは、大学に通いながら養成スクールに通っていた2019年。専門的な知識が増え、技術が熟練してしまう前だからこその視点やアイデア、限られた知識・技術でできることを大切にしたかったのだという(詳しくはこちらの記事を参照)。
2020年には、制作過程やその時々に感じたことを書き留めたZINE『100均商品だけで食品サンプルを作ってみた』を発行。また、今回の展示にあわせて、新作のうな丼とプリンパフェを取り上げた続編も発行している。
シカクの中央にある小ぶりな展示空間には、全6品が登場。ここからは、完成までの経緯が記されたZINEを読みながら、おもな作品を紹介していこう。
柔らかいクッションヤーン(編み糸の一種)の麺に、ボア素材のソールでつくられた存在感抜群のお揚げ、メイク用スポンジを加工したかまぼこ。フレッシュなきざみネギは、アイロンビーズでできている。
一見すると濃厚なカレーうどんだが、これはきつねうどんだ。制作した当初、出汁として透明な薄黄色のエポキシ樹脂を流し入れていたが、ラップをした状態で(保存方法も食品さながら)タンスにしまっていたところ、10か月後には茶色に変色していたのだという。
展示キャプションによれば「本来の食品サンプルでは考えられない劣化のスピードですが、これも『100均クオリティ』としてお楽しみいただけますと幸いです」ということらしい。一般的な食品サンプルも、約1年で褪色したり艶がなくなったりするそうだが、こちらはまったく別のメニューに顔を変えることで、第二の人生(うどん生?)を歩んでいる感がある。
こちらのサンドイッチも、当初は真っ白であったボディスポンジが、今では胚芽パンに限りなく近い自然な茶色へ変色している。なるほど、この配色はパン屋の冷蔵ケースやスーパーのサンドイッチ売り場で見たことがある。ナイスな経年変化だ。
ZINEのなかで、「パン製造のアルバイト経験を生かせるときが来た」と意気込みを語る寺田さん。断面の美しさにこだわり、ラナンキュラスの造花でレタスを、シリコン製のパウンドケーキ型でハムを表現し、見事美しいハムサンドを完成させた。よく見るとクリーム色に着色したボンド(マヨネーズ)がちらりと覗くのが憎い。
この色鮮やかなエビフライの素材はなんだ……? 注意深く観察してみたが、見当もつかない。正解は、装着して野菜を撫でるだけで皮が剥ける商品「皮むき手袋」らしい。表面にゴツゴツした凹凸がついており、加工前からすでに揚げ物の雰囲気を漂わせている。寺田さんは「この商品を見つけた瞬間、エビフライをつくるしかないと思った」と語る。商品からアイデアを得る場合もあるようだが、そもそも食品サンプルの素材を探すという視点で100均へ赴かなければ、気がつかないものである。
ZINEのなかで「(100均は)なんでも揃う、いわば素材の宝庫」と語られているように、寺田さんにとって100均商品は“素材”らしい。造花の花びらやパウンドケーキの型を分解し、製品を素材に戻す。すると、もともと持っていた機能が取り払われ、単なるモノが目の前に現れる。さらに、それらを再構築していく……そんな一連の流れに、製品の概念が溶けていくような心地よさを感じた。純粋なものづくりの楽しさを感じられる展示に、思わず気持ちが明るくなる。
帰り道、自分も何かつくってやろうという気持ちになり、千鳥橋駅の近くにある100均に寄った。申し分ない品揃えだ。しばらくワクワクしながら棚を眺めていたが、なにも思い浮かばず、結局購入したのは割り箸のストックだけ。作品づくりに必要なのは、材料を見極める食品サンプル職人としての眼差しだったのだと思い知った。
クレハフーズ「100均商品だけで食品サンプルを作ってみた展」
会期:2022年3月27日(日)〜4月17日(日)
会場:シカク
『100均商品だけで食品サンプルを作ってみた』(800円+税)
『100均商品だけで食品サンプルを作ってみた2』(1,000円+税)
シカクオンラインショップから購入可能