paperCでは、これまで2回にわたって大阪発のアートフェア「ART OSAKA」を取り上げてきた。大阪を代表する近代建築「大阪市中央公会堂」に会場を移した2021年、その様子を運営者の言葉とともにフォトレポートとして紹介。また、2022年には、20周年の節目を迎えたART OSAKAの歴代代表者へと質問を投げかけ、その歴史と現在について語っていただいた。
そして、2023年7月26日(水)〜31日(月)に開催された「ART OSAKA 2023」では、本アートフェアの独自性のひとつ、大型作品・インスタレーションに特化した「Expandedセクション」をレビューする。執筆は、国内外で多数の展覧会を企画し、多くのコミッションワークも手がけるキュレーター、金澤韻(かなざわ・こだま)。
なお、ART OSAKAのトークイベントアーカイブにて、金澤と千島土地株式会社の木坂葵によるレビュー&トークが期間限定(9/10まで)で公開されている。こちらもあわせて見ておきたい。
美術作品を展示即売するイベント「アートフェア」は、公立美術館の展示や芸術祭とは違い、営利目的のイベントである。アートフェアは世界的な現代美術マーケットの活況を受けて拡大傾向にあり、日本もその例に漏れない。「NICAF」(1992~2000年)の後継イベント「ART FAIR TOKYO」(2005年~)が長らく日本を代表するアートフェアだったが、京都で2021年に始まった「Art Collaboration Kyoto」が評判を得、また今年、本格的な国際アートフェアとして「東京現代」が第1回を開催し好評を博した。2023年はまさに日本列島がアートフェアの時代に突入した印象を抱くモーメントだ。
そのなかで、「ART OSAKA」は、今年、なんと21回目を迎えた。現代美術にフォーカスし、継続しているものとしては日本で最も長く続くフェアになるそうである。つまりART OSAKAは、昨今の流れに乗ったものではなく、むしろその現代美術のうねりをつくってきた人たちのイベントである。関西を中心にギャラリストたちが集まり、自前で始めたというその構造は今も変わっておらず、ギャラリストたちが理事を務める団体=一般社団法人日本現代美術振興協会(APCA JAPAN)が主催・運営を担う。このART OSAKAの「持ち寄りパーティ」感こそ、ほかの多くのアートフェアと大きく異なる点だ。
ここに昨年、もうひとつの大きな特徴が加わった。大型作品とインスタレーションに特化した「Expanded」セクションだ。千島土地が場所を提供し、またクラウドファンディングで多くの支援者を得て、名村造船所大阪工場跡地-クリエイティブセンター大阪(CCO)にてExpandedは立ち上がった。第1回の成功を受け、今年はクラウドファンディングなしで開催。また新たに同じ北加賀屋エリアのスペース「kagoo(カグー)」にも会場を広げた。
CCOで最も特徴のある4階の大空間で、今年はTEZUKAYAMA GALLERYの木村剛士が舟を題材にした大規模なインスタレーション《see the sun》を展示した。図面が床に残る、船の製図室であった場所に、床の面がちょうど喫水線となるよう8隻のボートを配してある。先が円盤のブロンズのオールは、満ち欠けする天体にも見え、水面や宇宙にいるような浮遊感をもたらした。
CCO3階、シーズン・ラオ(Nii Fine Arts)の《虚室・生白》は、古い仏像や切り株と、抽象画のような風景写真を組み合わせた、贅沢な余白を擁する展示であった。通常はぎゅっと詰め込まれたような空間となるアートフェアではなかなか見ることのできない、詩情を湛えたプレゼンテーションだった。
控室の空間で版と版画を向かい合わせた若木くるみ(アートゾーン神楽岡)の《セルフィー》も面白かった。名画をモチーフにした本作は、自分の顔を作品の背面の鏡に写して顔出しパネルのように楽しむようになっており、場所を事前に調査した上で構想された作品であることがわかる。
ロープでつくられた3つの球体とオブジェクト、ドローイングとフロッタージュで展示室を構成した黒川彰宣(MORI YU GALLERY)《判断のしどころ、た抜きの暗号》は、小さなものから大きなものへ、形のはっきりしたものから不明瞭なものへと連続する私たちの世界のありようを思わせる、複雑で繊細な展示だった。
ほかにも、古代遺跡から発掘されたような絵画や彫刻を、巨大な祭壇のような複数の棚に並べたインスタレーションを行った並木久矩(Gallery MOS)《Walking with the story of the stars》、溶けていく絵画の映像と、紫外線を一部カットする額に入った平面作品によって、うつろいゆく時間を印象付ける大﨑のぶゆき(Gallery Hosokawa)《Ghosts》、植物と昆虫を観察するなかで紡ぎ出された造形が球体となって惑星のように浮かぶ、新野洋(YOD Gallery)《生命の劇場 -34°44’N 136°01’E-》など、見応えのある展示が目白押しである。
kagooでは、AR表現を織り込みながら、ドローイングや3Dプリントのなかに禅の思想を描き出そうとしたケビン・ハイスナー(J-Collabo/BEAF)《うたかたの雲:トランス周波数解放》、Google Mapのストリートビューを通してリサーチした世界各地のグラフィティを木彫に起こした葭村太一(Marco Gallery)の《34°37’21″N 135°28’29″E》などが展示され、そのデジタル表現やインターネットを起点とした作品にも心引かれた。ちなみにハイスナーは今回、CCOの敷地入口壁面に新たな壁画を滞在制作している。
国の重要文化財である中之島公会堂で開催されたGalleriesセクションには、たくさんの作品が集まり、凝縮された空気感を醸し出していた。5万から10万といった手に取りやすい価格帯の作品も販売されており、ART OSAKAがアートコレクションデビューの場になっているというのもうなずける。日本のマーケットの価格帯は海外に比べて低めと言われるが、関西ではさらにその傾向が強い。もちろん作品そのものの美術的な価値とは無関係だ。ART OSAKAにコレクターは急げ!ということかもしれない。
アートフェアといえば高額作品が並び、一般の美術愛好家には敷居が高くなりつつあるが、ART OSAKAは美術の素晴らしさをExpandedセクションで力強く見せてくれるし、Galleriesセクションはリーズナブルだし、とても親しみやすい。年々入場者数が増加し、今年は約7,180人*が訪れたART OSAKA。この、現代美術を愛する人々の、魂のこもったフェアに、今後も注目したい。
*2023年の入場者数は、Galleriesセクション=2,680名、Expandedセクション=4,500名。昨年の入場者数は全体約4,700名(Galleriesセクション=2,300名、Expandedセクション=2,400名)
現代美術キュレーター。熊本市現代美術館など公立館での12年の勤務を経て、2013年よりインディペンデント・キュレーターとして活動。メディアアート、漫画、地域とアート、障害とア ートなど既存の美術の枠を超える領域を扱い、時代・社会と共に変容する人々 の認識を捉えようとする企画を行なう。国内外で展覧会企画多数。コダマシーン共同代表。京都芸術大学客員教授。現代美術オンラインイベントJP共同主宰。
Expandedセクション
会期:2023年7月26日(水)~31日(月)
会場:クリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)、kagoo(カグー)
Galleriesセクション
会期:2023年7月28日(金)~30日(日)※28日は招待者、プレス関係者のみ
会場:大阪市中央公会堂 3階
▶︎出展作家 / ギャラリー20組(*=初出展)
大﨑のぶゆき / ギャラリーほそかわ
釡本幸治・長谷川政弘 / ノートギャラリー
木村剛士 / TEZUKAYAMA GALLERY
黒川彰宣 / MORI YU GALLERY
今野健太 / HARMAS GALLERY*
シーズン・ラオ / Nii Fine Arts
新野洋 / YOD Gallery
菅木志雄 / 小山登美夫ギャラリー
杉谷一考 / GALLERY TOMO
須田日菜子 / GALLERY KOGURE
中島一平 / Gallery OUT of PLACE
NAZE / FINCH ARTS
並木久矩 / ギャラリーMOS
松田将英 / EUKARYOTE*
若木くるみ / アートゾーン神楽岡
artists for streetsummit 2023 Dotmasters &久村卓 / ギャラリーかわまつ
岡田佑里奈 / biscuit gallery*
ケビン・ハイスナー / J-Collabo/BEAF *
松岡柚歩 / CANDYBAR Gallery*
葭村太一 / Marco Gallery*
Galleriesセクション
会期:2023年7月28日(金)~30日(日)※28日は招待者、プレス関係者のみ
会場:大阪市中央公会堂 3階
▶︎出展ギャラリー46軒(*=初出展)
AaP/roidworksgallery、AIN SOPH DISPATCH、AKI Gallery、アートコートギャラリー、アートゾーン神楽岡、カペイシャス、Der-Horng Art Gallery、 DMOARTS、朝代画廊Dynasty Gallery、eitoeiko、FINCH ARTS、FUMA Contemporary Tokyo |文京アート、Gallery 38、gallerychosun、GALLERY IDF、GALLERY KOGURE、ギャラリーノマル、GALLERY麟、GALLERY TOMO、hpgrp GALLERY TOKYO、イムラアートギャラリー、ジルダールギャラリー、KAZE ART PLANNING、ケンジタキギャラリー、小出由紀子事務所、KOKI ARTS、小山登美夫ギャラリー、MAKI Gallery、MARUEIDO JAPAN、masayoshi suzuki gallery、メグミオギタギャラリー、MEM、MORI YU GALLERY、Nii Fine Arts、西村画廊*、ノートギャラリー、studio J、タグチファインアート、TARO NASU*、TEZUKAYAMA GALLERY、サードギャラリーAya、ときの忘れもの、YOD Gallery、万画廊、Yoshiaki Inoue Gallery、Yu Harada