「いらっしゃい、ゆっくり過ごしてくださいね」。チャイをかき混ぜながら、オーナーの古市邦人さんがカウンター越しに話しかけてくれた。
2023年7月に誕生したばかりのチャイ店「Talk with _ 」は、大阪・北加賀屋の複合施設「NAGAYArt」の一角にある。店内に優しく漂う、チャイの甘く癒される香り……、十数種類のスパイスがブレンドされたチャイは、お腹だけでなく心も満たしてくれる。
お店のコンセプトは、「少し、休もう。話をしよう」。Talk with _ は、大阪市東住吉区で、玄米カレーとチャイのお店「nimo alcamo(ニモアルカモ)」を運営してきた、古市さん(一般社団法人NIMO ALCAMO代表理事)がはじめた、新しいワークルールの職場をつくろうとするプロジェクトだ。その面白さはスタッフの働き方にある。1人分の仕事を複数人でシェアする働き方や24時間シフトフリー、アバター接客など、「既存のルールを壊す」職場づくりに取り組んでいる。お店ではチャイやギフトの販売に加え、アバターによるオリジナルチャイのワークショップも定期的に行っていくそうだ。
古市さんは前職時代から10年以上、就労支援に携わってきた人物。就職しても離職してしまうという悪循環のサイクルから抜け出せない人、さまざまな理由で就労しにくくなっている人の相談を聞くなかで、現状の職場ルールでは本質的な問題は解消されないと気づいたという。
「働けない事情を聞きながら、本人をどうにか変えようとする、現在の職業支援に対して限界を感じていました。僕が活動をはじめた原点は、ここにあります」
「nimo alcamo」でも、この店を就労支援拠点とし、離職者の職場体験を受け入れてきた。この店はTalk with _ が生まれるきっかけにもなった、ある2人との出会いの場所でもある。
ルールに合わせるのではなく、働く人のためのルールをつくる
ひとりはソムリエ資格を持つ男性。完璧な接客をさらっとこなす彼を見て、働くことに何も問題がない印象を受けたという。しかし彼の話を聞いてみると、精神的な波があるため朝突然ベッドから起き上がれない日があり、シフト制の勤務先では、穴をあけてしまう可能性があるので務めることができないという。いつ訪れるかわからない体調不良の日のために、能力が生かせないのはもったいない。そこでシフトのない働き方が生まれた。Talk with _ では先々まで決まったシフトはなし。「入れるときに入れる」よう、勤務日を直前に決めることができる仕組みになっている。
もうひとりは、摂食障害を持ち自分の体型を人に見られたくないと思う女性。「見た目の問題には、出口がない」と話す古市さん。これもTalk with _ でのアバターワークショップの着想へとつながった。アバターとしての接客ならば、見た目のハンディキャップをなくして働ける。
「病気を治したり、トレーニングすることで働けるようにするという考え方ではなく、今のまま、病気のまま働ける環境があればいいのではないか。本人を変えようとするのではなく、ルールを変更すればいいのではないか、というチャレンジです」と古市さんは語る。
Talk with _ のチャイギフトは、“休むためのチャイ”。休んでほしいと思う人に、そのきっかけをつくるための贈り物として誕生した。チャイを通して、自分と話す内省の時間を味わってもらいたい、どこかしら悩みを抱える人たちがひと息つけるように、そんな想いが込められた商品なのだ。
チャイ商品は、隣接する製造工房でつくられている。商品開発には、何らかの理由で休職・離職をした若者たちのアイデアが大いに生かされている。締切と納品によって生産管理が成されており、24時間いつ来ていつ帰ってもいい職場。スタッフは自分の体調に合わせて働き度合いが決められる。1人分の仕事を3人でシェアしてもいい。
「これからは、店舗でもカウンセラー相談や対話イベントを設けていく予定です。民間の仕組みだからこそできることをやっていきたい。Talk with _ という空間が入り口になって、いろんな人が休める居場所になってくれたら嬉しい」。今の働き方を疑い、新しいルールをつくって働きたい人をサポートする。疲れた鳥が羽を休めて、自信をつけて飛び立てる、優しい場所がここにある。
Talk with _
営業日:水・木・金・土・日曜
営業時間:11:00〜17:00
Talk with _
大阪市住之江区北加賀屋2-4-2
NAGAYArt No.1