「芸術文化を、大阪から考える」といった際に、まずは大阪、ひいては都市について改めて考えたいと思いました。これはコロナ禍で、わたしたちの暮らしを成り立たせている社会の仕組みや経済について再考するときが来ていると実感したからです。プラネタリー・アーバニゼーション(地球の都市化)という言葉もありますが、わたしたちはロジスティクスというスムーズな流れによって、常に有形無形の商品を消費し続けることで、あるいはリモートを加速させるコミュニケーション技術によって、物理的な出会いがもたらす関係性や、使ったり食べたりしているものの連関への想像力が奪われているようにも思えます。その異様とも言えるスムーズさのなかに、どのように亀裂やひっかかりを見つけ出していくのか。そこから、文化や芸術が醸造されるのだと思います。  今回の特集では、猪瀬浩平さんとの対談では、私たちの生き方や、コロナ禍において顕在化した感染させる/させないの二元論に回収される違和感と、リモートによるコミュニケーションによってこぼれ落ちる「巷」的なひっかかりについての大切な視座と経験を、有家俊之さんにはロジスティクスと反対側にあるものの調達とその楽しみとおいしさを教えていただきました。また、北川眞也さんとの対談で都市のパースペクティブとそのなかで行われている実践をお聞きしながら、いかに私たちは行動できるのかというヒントを与えていただき、合わせて、櫻田和也さんとともに大阪という都市を成り立たせている住之江の物流拠点、港湾地帯をフィールドワークすることで改めて私たちの暮らす都市を実感することができました。一見、つながらないようなこれらの経験や知見は、どこでもすぐにつながれる現在において、私たちに物事を編み直す想像力を与えてくれます。今回、対談やフィールドワークをともにした4者は、みなアーティストだと思います。家成俊勝 Toshikatsu Ienari ー 建築家。1974年兵庫県生まれ。2004年、赤代武志とdot architectsを共同設立。京都芸術大学教授。アート、オルタナティブメディア、建築、地域研究、NPOなどが集まるコーポ北加賀屋を拠点に活動。
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2021.05.24
#enoco#檜山真有#野原万里絵#ART#REVIEW#大阪市#阿波座

REVIEW|Believe Achieve

檜山真有
文: 檜山真有 [キュレーター]
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撮影:麥生田兵吾

大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]で開催された大阪府20世紀美術コレクション展「彼我の絵鑑(ひがのえかがみ)」は、大阪府の持つ作品を、招聘アーティストである野原万里絵が選び、それに合わせて野原の作品を構成した展覧会である。会場で配布されたブックレットには作品の図版と作品情報、彼女の手書きでのコメントが載せられている。先人たちの作品に影響を受けつつ自らの作品を展開していくこちらとあちらの往来、そして、実会場とブックレットでの鑑賞体験としてのこちらとあちらの往来。その往来を貫くものを私たちはどこに見出すのか。

野原は、各地でワークショップなどを実施し、他者と自らが協働する絵画の制作方法の新たな可能性を模索しながら制作を行っている。本展においては、大阪府がコレクションとして収集してきた作品を選び、会場で自らの作品と織り込みながら配置することで、彼女の作品のなかにある質感と彼らの質感との違いを浮かび上がらせ、それらの観察を通して彼女の作品の多様な質感も同時に鑑賞者は観ることができる。ドローイングノートに描かれているモチーフを額装作品へと描いた〈Drawing –計測−〉シリーズは技法を変え、質感を新たにした〈計測のペインティング〉シリーズへと展開してゆく。このシリーズは上前智祐《無題》の厚く盛られたインクの質感をヒントに制作された。それぞれが持っているものの違いについて彼女は、ブックレット内で技法や彼らの制作背景に思いを巡らせながらスケッチとともにコメントを残す。実会場ではそれぞれの質感やアトモスフィアが前面に現れ、それらをひとつのまとまりとする手技を見たが、ブックレットに印刷されたミニチュアの作品画像と彼女の手描きのスケッチとコメントは、質感よりも色彩が強く表れ、それぞれがかしましく自分たちを語る。

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展示会場風景。画面右が、上前智祐《無題》(2点)と、その間に展示された野原万里絵〈計測のペインティング〉シリーズ。撮影:麥生田兵吾

本展で色彩より多弁な質感とは何か。それはどのようなアタックをもって痕跡を残していくかということである。例えば、細やかでありながらも素早い筆致により小さく揺れる風を線描のみで表した泉茂《そよ風》や、上前智祐《縫31(黒)》は黒地のキャンバスに白の太い糸で縫っていく。その縫い目の粒は、近くで見たときと遠くで見たときの印象を変えて波のようにうごめく。それぞれの方法でこの時代、この場所に自らの痕跡を残す挑戦を続けていく。どれほど美しくとも海の水面に痕跡が残すことができないように、アタックして傷を残さなくては何もかも消えゆくものばかりである。

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展示会場内でスケッチを続ける野原万里絵。画面右が上前智祐《縫31(黒)》。撮影:麥生田兵吾

そのことを最も強く示すのは、野原の普段は人に見せることのないというモレスキンのドローイングノートである。本展において展示されていた(おそらく野原が在廊中もずっと書いていたであろう)ノートたちは、彼女の筆圧で店頭に並んでいるときよりも大きく膨れていた。ジェットストリーム0.5mmを使って描くというルールを自らのうちに課す以外は、すべて自由なそのノートには紙に凹凸が残るくらい力強い筆致もあれば、弱い力で描いた細い筆致も見ることができる。線ばかりを描いているページもあれば、スケッチのように何かを描き写しているものもある。手癖から逃れるように、あるいは、手癖によって自らを同定するように何かを描くノートは彼女の内省がどのように世界に対してアタックするのかというためらいを見る。

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撮影:麥生田兵吾

他者とのコミュニケーションすることで外から世界を比較し、把握することと、自らの内省により世界をうちから拓くことの双方を試みていることを本展で明かした彼女の営みは、こちらにある世界とあちらにある世界を切り分け、結ぶ行為である。双方を貫く彼女の思慮深きためらいが本展では張りつめられ、こちらでもあちらでもない均衡状態で保たれていた。

檜山真有 / Maaru Hiyama

1994年大阪市北区生まれ。東京芸術大学大学院国際芸術創造研究科修了。とらえがたいものの影響により起こる循環がどのように世界に影響を及ぼすのかを見たくて文化芸術に携わっています。2021年は本と展覧会をつくる予定です。2020年はWeb版美術手帖とFASHIONSNAP.COMで連載をしていました。

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大阪府20世紀美術コレクション展「彼我の絵鑑」

※主催者より以下、お知らせ[2021.6.16更新](Webサイトより転載)

4月25日(日)から6月20日(日)までの臨時休館に伴い、本展については4月24日(土)でひとまず終了いたしましたが、現在、6月22日(火)〜7月3日(土)の期間での再開を検討しております。
ただし、新型コロナウイルスの感染拡大状況により変更・中止となる場合があります。
最新情報につきましては、改めてWeb、SNSにてお知らせいたします。

会期:2021年3月30日(火)〜5月1日(土)11:00〜19:00 ※緊急事態宣言の発令に伴い4月24日(土)までに変更

休館:月曜日

会場:大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]  1F ROOM4

入場料:無料

主催:大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco]

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