美術家・森村泰昌が自らの作品展示をディレクションする、北加賀屋の「モリムラ@ミュージアム(M@M)」にて、第8回展「『顔』―KAO」が開催される。
森村は1985年に、自身の顔に絵のようなタッチの化粧を施し、粘土の帽子をかぶり、ゴッホの自画像に扮して写真を撮影した。その作品《肖像(ヴァン・ゴッホ)》は森村の代表作となり、以降も映画女優や21世紀という時代と戦った著名人など、 さまざまな「顔」になるセルフポートレイト作品を制作し続けている。
本展では、「顔」にこだわった作品群を4章に分けて紹介。森村の「顔」のバリエーションの広がりと、そこに込められた思いをたどる展覧会となる。
「顔」と「KAO」
骨格と上にのってる 表皮と筋肉の動きが 一致していない
興味深い顔だ
なんていうのかな? 一見かんぺきに見えて
バランスがずれてる
そこがなんとも不思議なかんじだ
(岡崎京子「ヘルタースケルター」より)このたびモリムラ@ミュージアムでは、第8回企画展《森村泰昌 「顔」-KAO》を開催いたします。「顔」がおおきく扱われたモリムラ作品の数々が一堂に介します。自画像 の顔、ファッションモデルの顔、紙幣の顔・・・、モリムラの顔がさまざまな顔に変わります。
「顔を変えたい」などと犬や猫は思いません。ヘアスタイルをアレンジしたり、メイクを工夫したりして顔を変える。これは人間特有のじつに不可思議な欲望です。もしかしたら「顔」とは、人間そのものを意味しているのかもしれません。
でも未来はどうなるかわからない。岡崎京子のマンガ「ヘルタースケルター」の主人公、 りりこは整形手術をくりかえし見事な美形となり、その結果サクセスストーリーを歩むことになるのですが、やがてもともとの「私」と新たに獲得した「顔」とのバランスがくずれてゆく・・・
「顔」をめぐる壮絶な修羅場を描いた悲喜劇、「ヘルタースケルター」が描かれたのは1996年。あれから26年ばかり経った2022年の今なら、りりこはあれほどの苦渋を味あわなくてもよかったのかもしれません。というのも、「私」がレプリカント、すなわち人工的に製造された「顔」になることに、私たちはすでに抵抗感がなくなってきつつあるからです。Photoshop で「私」の「顔」を加工する、あるいはネット上で自在にア バターを楽しむ。そういう「顔」を変えることにたいする軽快なゲーム感覚には、もはやりりこが苦闘したあの「私」と「顔」の乖離は希薄です。「顔」は、衣服を着替えるのにも似た、着脱可能なキャラクター装置となりつつある。 いまや、「私」は「顔」に悩むのではありません。「私」は「顔」と戯れるためのテクノロジーを楽しもうと欲している。そのことを伝えたら、りりこは救われるだろうか、それともやっぱり聴く耳持たず、ののしるだろうか。
今回の展覧会名は、「『顔』KAO」です。漢字表記のほうは、「私」から引きはがしたくても、一生まとわりついてくる厄介至極な、しかし愛すべき「顔」を意味しています。 「私」と「顔」がイコールでつながっていたころの時代感覚をあらわしています。 そしてアルファベット表記が意味するのは、私たちの未来形としてすでに視野にはいりつつある、着脱可能な装置としての「KAO」です。 「顔」の時代の終焉は近い。あるいは「私」が「私」であることの意味を探しつづけてきた「人間」の歴史にも黄昏がやってきた。
本展で私は「顔」と「KAO」の稜線を綱渡りしてみたいと思います。きわどい境界線上に歩を進めながら、眼下にはどんな風景が眺められるのでしょう。この「顔/KAO」を めぐる想念の散策におつきあいくださいますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
森村泰昌
会期:2022 年11月18日(金)〜2023年5月7日(日)※金・土・日・祝に開館
会場:モリムラ@ミュージアム(M@M)
時間:12:00〜18:00
休館:月〜木曜(祝日を除く)、2022年12月19日(月)~2023年1月19日(木)
入館料:一般 ・大学生 600円、 高校生・中学生 200円 小学生以下 無料
大阪市住之江区北加賀屋5-5-36 2F