去年の夏、ブラジルの小島に滞在した。どこまでも続く空と海を全身で感じたくて、毎朝、日の出前に起きて海岸で瞑想をした。大きく息を吸い込むと朝の空気が私の体を満たし、ふーっと息を吐くと、さっきまで私の体の一部だった空気は再び大気へ返っていく。太陽が昇ると私は静かな海へと向かう。身体の境界が溶けて海水と一体化していく。砂浜には波の形が映されて砂紋ができ、浜に住む数々の生物の生存の跡が残る。足元にある貝殻を拾い、砂浜に線を描いてみる。朝日の鋭角の影がそれを際立たせ、世界をあちらとこちらに分ける境界線になり、同時に私の生きた証にも見える。日が昇りきると、砂の上の線は満ち潮のなかにすっかり消えていた。現れたり消えたりする境界線、BORDERをテーマにした作品を作りたいと思った。
郡 裕美
–
プロフィール
建築家/美術家。光や音、ミニマルな要素を用いて空間を変容させる作品を、ベルリン、ニューヨーク、東京、サンパウロ、バーゼルなど世界各地で発表。名古屋市生まれ。京都府立大学卒業後、コロンビア大学建築学科修士課程を修了し、翌1996年同大学准教授に就任。ニューヨークに拠点を設け、建築設計と並行してアート活動を開始。2015建築学会賞/2012 ARCACIA 建築賞ゴールドメダル/2005文化庁海外新進芸術家派遣など受賞多数。イエール大学、東京理科大学、名古屋工業大学など国内外で教鞭をとり、2016年より大阪工業大学教授。(Webサイトより)
BORDER|郡 裕美
会期:2023年1月25日(水)〜2月12日(日)
会場:+1art
時間:12:00〜19:00(最終日 〜17:00)
休廊:日・月・火曜 ※2月12日(日)は開廊
大阪市中央区谷町6-4-40
あわせて読みたい記事Editor’s Selects