
転機となった今村源との2人展「共生/寄生ーForest」からはや10年 ー
飽くなき探究心と制作への意欲が生み出す東影智裕の現在地ウサギやウシといった動物の頭部のようなものをモチーフにした彫刻作品で知られる現代美術家、東影智裕。緻密な毛並みに覆われた精巧な作品群は一見すると写実的ですが、自身の記憶のみでかたち作るその造形は見る人に不思議な違和感と余韻を残します。
“生と死”を根幹のテーマに持つ東影の作品は、相反する要素の境界を曖昧なものにしながらも強い存在感を放ち、リアリティとイマジネーションを共存させたまま静かに空間に佇みます。それは生と死の共存でもあります。近年では、生命の気配を残しながらも繁殖する毛並みそのものに注目した、より抽象的なアプローチも試みています。
ノマルでの前々回2018年の個展では、映像と彫刻を融合させたインスタレーションや、立体作品で使用する素材を用いた新たな平面作品を発表。また前回2021年の個展時には陶と流木とを積み重ねたこれまでにない立体作品を展示し、それまでの作風を知る人たちを驚かせました。そのように、東影は根底に一貫したコンセプトを持ちながらも常に新しい表現手法にも果敢に取り組むことで、自身の創作の幅を広げ、また制作することへの探求を深めていっています。
森に入り自身の制作の根源と向き合う
昨年秋に急逝したノマルディレクター・林から提案された今展タイトル「ダーク フォレスト」の言葉に導かれるように、東影は昔から馴染みのある自宅の裏山の奥に分け入り、その場所での時間の経過の中で見た光、聞こえた音を記録しました。そこでは自分の制作の根源的なものに改めて向き合うきっかけになったといいます。
今展ではその時の気づきを元に、自己の根源を深く意識しながら感覚と思考を両輪とした作品制作に取り組んでいます。また今回初めての試みとして写真作品にも挑戦。その他、みる人の感性を開くような展示の要素も実験的に取り入れる予定です。芯となるものを強く持ち、また深く探求しながら、合わせて常に新たなチャレンジを続ける東影智裕の新作展をご期待ください。
(Gallery Nomart)
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作家コメント
「ダークフォレスト」
展示タイトル「ダークフォレスト」は、ディレクターの林さんが生前に名付けてくれたタイトルです。次の個展のタイトル、ドイツに黒い森があるんやけど、前「フォレスト」やったし、黒い森のイメージで「ダークフォレスト」はどう?と。ドイツの黒い森は分からないけれど「ダークフォレスト」と聞いて、良い響きだなと思いすぐに返事をした。
自分の作品の毛並みについて、動物の毛皮ではなく植物のようなものと、よく説明しています。10年前に「共生 / 寄生 − Forest」と言うタイトルで今村源さんと一緒に展示をさせていただいたのですが、ちょうどそのころ、自分の作品の毛並みが動物の毛皮ではない、何か別のものではないかと、疑問を感じるようになっていたところでの、今村源さんとの展示、これが転機となり、自分の作品の毛並みは苔のような存在だったと気付き、それからは苔や植物が侵食、増殖するようなイメージで毛並みを制作し続けていたのですが、ではなぜ、作品の毛並みが植物なのか?と言う部分は、深く追求する必要はない、それは自分中ではある程度理解できているから、追求することはむしろ制作の邪魔になると考えて制作を行なっていました。
「ダークフォレスト」のイメージを深めるために数年振りに自宅のすぐ裏にある山に入ってみた。そこは雄大な自然などではなく、何処にでもある杉が植林された里山なのですが、少し奥に行くと、ああ、ここで見て感じたものが自分の制作にとって最も根源的なものなのだと今更ながら実感する。自分が作りたかったものは、この山、森そのものなのだと。 しかし、自分が何を作ろうと、その光景には敵わずそれを実現させる方法はただ一つ、その空間そのものを展示会場に移し作品化する以外ないと本当にそう思う。
「ダークフォレスト」について深く思考する矢先に林さんが急逝され、今となっては林さんのイメージする黒い森が一体どのようなイメージだったのか僕には想像もできないのですが「ダークフォレスト」と決まった直後のやり取りで、空間としてではなく、一点一点の作品をしっかり見せる展示にしようと言う言葉が心に残っています。
今回、久しぶりに頭部の作品を制作しています。立体作品を発表するきっかけとなった作品として代表的な動物の頭部を模した「視界」と言う作品があるのですが、これは視覚を意識して制作しています。ここ数年はこのタイプの制作は行わず、近年は手の感覚を重視した制作を行なっていました。ただ、頭部の作品を制作する事を止めた分けではなく、いつかもう一度作りたいと思いながら、制作にはなかなか至らなかったのですが「ダークフォレスト」は自分の根源と向き合う必要があると考えると、触覚を基に、意識する事なく自然に、視覚と頭部を意識した制作を行なっていました。
何処にでもある里山、その何の変哲もない山の中ですら、深く静謐で雄大な異界を感じる。自分自身の手から作り出す作品が、森や山を構成する一部であり全体を表す存在となり、一点だけでその雄大な異界の入り口に立つ事の出来る作品を作りたい。それは森深く永遠に辿り着かない場所にある。
東影智裕
会期:2025年6月28日(土)〜7月26日(土)
会場:Gallery Nomart
時間:13:00~19:00
休廊:日曜・祝日
Gallery Talk & Opening Party
日時:6月28日(土)18:00〜
※予約・料金とも不要Closing Event “Dark Forest”
日時:7月26日(土)19:00開場、19:30開演
出演:針山愛美(バレエダンサー)、 sara (.es) (ピアニスト)
料金:前売3,000円、当日3,500円
定員:20名(予約制)※詳細・予約はこちら協力:宇都宮泰
大阪市城東区永田3-5-22