
「アートとともにありのままに生きる」をキーワードに、自然の循環が人々にもたらすことを芸術分野から研究するオープンアートラボ「SUCHSIZE(サッチサイズ)」。大阪市西成区のスペースで季節毎に展覧会を開催し、さまざまな人が交流する場を創出している。
2026年秋展には、ベトナム人アーティストのチ・L・グェン(1992〜)と、神戸出身で現在はアメリカを拠点に活動する野村在(1979〜)を招聘し、3つの会場で展示を展開。キュレーションは、SUCHSIZEを運営するアーティスト・Yukawa-Nakayasuと、ベトナムの現代アートオーガナイゼーション「Sàn Art(サン・アート)」のキュレーター、マリー・ルー・ダヴィドが共同で務める。
この度、SUCHSIZEでは、チ・L・グエン(Chi L. Nguyễn)と野村在(Zai Nomura)を迎え、記憶の共有と継承を探求する展覧会を開催します。本展では、普段交わらないはずの他者の記憶に触れたときに起こる、記憶の想起や認識の変容についての可能性を探ります。
ベトナム人アーティストのグエンは、口承の伝統や工芸との対話を通じて、世代を超えて受け継がれてきた「継承された記憶」を解き明かし、伝承や歴史がいかにアイデンティティを形成するかを考察しています。彼女は、ライスペーパーという透明で脆い素材の上に、家族との記憶や植民地時代の記録を想起させるイラストを描くことを通して、世代を超えた歴史の視覚言語を重ね合わせ、記憶の境界を曖昧にしています。
一方、アメリカを拠点とする野村は、失われゆく記憶の継承に着目したパフォーマティブな彫刻作品を展示します。本作は、わたあめの製造機能をもつ彫刻と、認知症の方が所有する過去の写真が印刷された飴を中心に構成されています。会場を訪れた鑑賞者は、飴を選び、それから制作される「記憶のわたあめ」を食べるという体験を促されます。この行為を通して、鑑賞者を記憶の継承に能動的に参加させ、個人間の隔たりを超えた記憶を共有する輪に誘い込みます。
SUCHSIZEは、これらの他者の記憶や物語に触れる作品を通して、多文化が共生する大阪市西成区の社会構造に語りかける芸術交流を生み出します。無意識的な習慣や認識/記憶が個人の振る舞いを規定し、ひいては社会を形作るというハビトゥスの概念のように、私たちの記憶の共有と継承は、分断や絶え間ない変化を伴う現代において、社会のコミュニティを結び直す一つの術となり得るのではないでしょうか。私たちは、芸術作品による記憶の想起を出発点に、あらゆる物事と相互に影響し合った先の未来を想像するために、本展を社会に向けて開きます。
アーティスト プロフィール
Chi L. Nguyễn | チ・L・グェン (b.1992, Hanoi, Vietnam)
ビジュアルアーティスト。キャッスル・カレッジ・ノッティンガムにてBTEC美術・デザイン課程を修了した後、ロンドン芸術大学キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツでイラストレーション専攻の学士号を取得。
グェンは、ドローイング、ペインティング、インスタレーション、学際的かつリサーチベースのプロジェクトなど、様々なメディアで制作をおこない、矛盾の狭間にある空間と状態、自然・人間・精神性の相互関係、そして家族の物語を探求する。
近年の主な展覧会は、2024年「Seeing Double」(Spinnerei – Galerie Archiv Massiv、ドイツ、ライプツィヒ)、 2023年「Assemblage: me, my story & I.」(The Dogma Collection、ベトナム、ホーチミン)、 2022年「The Room 2」展(Vincom Center for Contemporary Arts、ベトナム、ハノイ)などがある。展示場所:SUCHSIZE
artist: Zai Nomura | 野村 在 (b.1979, Kobe, Japan / New York, USA)
野村在は、ロンドン大学ゴールドスミス校にて美術修士号(MFA)を取得後、武蔵野美術大学にて博士号(美術)を取得。
幼少期に経験した障害をもつ近親者の死や1995年の阪神淡路大震災は、物質の永続性や存在の安定性という概念に疑問を抱かせ、その後の創作活動に影響を与えている。
近年の主な展覧会として、 第13回ソウル・メディアシティ・ビエンナーレ(ソウル市立美術館、ソウル)、第17回 資生堂 art egg(資生堂ギャラリー、東京)、TOKAS OPEN SITE 8(トーキョーアーツ アンドスペース本郷、東京)、888(ジャパンソサエティギャラリー、ニューヨーク)、あいちトリエンナーレ(岡崎会場、愛知)などがある。2019年から2021年にかけて、文化庁新進芸術家海外研修制度の助成を受け、ニューヨークのISCP(International Studio and Curatorial Program)アーティスト・イン・レジデンスに参加した。展示場所:イチノジュウニのヨン
curator: Mary Lou DAVID | マリー・ルー・ダヴィド(b.1992, Bordeaux, France / Ho Chi Minh City, Vietnam)
パリ生まれ、ロンドン育ち。現在はベトナムとフランスを拠点に活動。2018年から2025年まで、ベトナムのアートシーンを牽引する現代アートオーガナイゼーション「Sàn Art(サン・アート)」のキュレーター。実験映画、ビデオ・アート、クィア・パフォーマンス、DIYへの継続的な関心に加え、同地のインディペンデントなアートスペースを支援し、コラボレーションするための新たなネットワークの構築を目指す。さまざまなレジデンスプロジェクトに携わる中で、コミュニティに焦点を当てたプログラムと国際的な芸術交流が地元のアートシーンを多様にし、活性化するためのプロジェクトを数多く実践している。Sàn Artでの展覧会企画と並行して、「Saigon Experimental Film Festival’ editions III and IV (2020年、 2022年) 」の共同キュレーション、 A. Farm (2018〜2020年)、Times & Realities(2021年)、Sàn Art Studio(2021年〜)、Ecologies of Water(2023年〜)といったレジデンシープロジェクトにも関わっている。speaker (artist talk): Joyce Lam | ジョイス・ラム (Kyoto, Japan)
香港生まれ、京都市在住。映像作品やレクチャーパフォーマンス、書籍の制作を通して「家族」の定義を捉え直す。主な展覧会に「あなたが眠りにつくところ」(藤沢市アートスペース、2023)、個展「家族に関する考察のトリロジー」(TOKAS本郷、2022)などがある。著書に自主出版した『生まれてきたあなたは縦単線の先にいる』(2023)。東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。2022年度アーツコミッション・ヨコハマU39アーティスト・フェロー。
SUCHSIZE 2025 autumn「Tender Recalls / Prospective Futures」
出展作家:Chi L. Nguyễn、野村在
共同キュレーター:Mary Lou DAVID会場1:SUCHSIZE、イチノジュウニのヨン(大阪市西成区山王1-6-20、1-12-4)
会期:2025年10月17日(金)〜11月23日(日・祝)のうちの金・土・日曜
時間:13:00〜18:00会場2:MaDO(大阪市西成区山王2-14-15)
会期:2025年10月30日(木)〜11月21日(金)のうちの月〜金曜
時間:9:00〜18:00
※10月25日に開催される「Tracing Memories」 Chi L. Nguyễn ワークショップの成果物を展示料金:2会場とも入場無料
ギャラリーツアー
日時:10月18日(土)16:00〜17:30
会場:SUCHSIZE、イチノジュウニのヨン、cocoroom、MaDO
料金:参加無料
※先着15名(予約無)オープニングレセプション
日時:10月18日(土)18:00〜20:00
会場:SUCHSIZE「Tracing Memories」 Chi L. Nguyễn ワークショップ
日時:10月25日(土)15:00〜16:30
会場:釜ヶ崎芸術大学(ココルーム)
料金:参加無料(寄付制)
定員:10名(要予約) ※10歳以上、日越逐次通訳あり
通訳:LÊ VĂN TIẾN(レ・ヴァン・ティエン)Chi L. Nguyễn × Joyce Lam トークイベント
日時:10月26日(日)16:00〜18:00(途中休憩有)
会場:NPO法人山王エックス
料金:入場無料
通訳者:和田太洋
※先着15名様は椅子席あり(予約不要)、日英逐次通訳あり野村在 トークイベント
日時:11月1日(土)16:00〜17:30 ※登壇者の調整中のため、日時の変更の可能性あり
会場:earth 2F
料金:入場無料
※先着15名様は椅子席あり(予約不要)主催:SUCHSIZE 助成:大阪市、芳泉文化財団
協力:イチノジュウニのヨン、MaDO、NPO法人 こえとことばとこころの部屋 、earth、NPO法人山王エックス
ワークショップ協力:NPO法人日越支援会、サービスハブ西成、社会福祉法人ストローム福祉会エリザベス・ストローム記念 山王こどもセンター
制作:株式会社エクラデジュール代表 中山洋平、カンロ株式会社、Yang Jian
パフォーマンス:田口路弦、霜野 真瑛、安部洋花、毛利あかり(敬称略、順不同)
大阪市西成区山王1-6-20