
2013年に茨木市の文化芸術振興事業として始動し、2024年に茨木市から茨木市文化振興財団に移管されリニューアルした「HUB-IBARAKI ART PROJECT」。ディレクター・内田千恵のキュレーションのもと、毎年アーティスト1名を招聘し、地域に根ざしたリサーチと表現に取り組んでいる。
2025年度は、京都とロンドンを拠点に活動するアーティスト・尾角典子を迎え、AI やセンサーなどの技術を取り入れた体験型展覧会「生成の庭」を開催。 茨木市におけるリサーチを通じて集めた人々の声をもとに、来場者の感覚や動きに呼応するインスタレーション作品を発表する。
なお、会場となる茨木市福祉文化会館(オークシアター)は、建て替えに伴い本展をもって取り壊される予定で、長年市民に親しまれてきた建物で開催される最後の展覧会となる。
ディレクターステートメント 内田千恵
茨木市文化振興財団に移管されリニューアルした「HUB-IBARAKI ART PROJECT」。二年目となる今回は、京都とロンドンを拠点に活動するアーティスト・尾角典子を迎え、大阪では初めてとなる個展を開催しま す。本プロジェクトは、アーティストが茨木市をリサーチすることを軸に、そこで生まれる学びや気づき、 対話をもとに作品が立ち上がる過程を重視しています。
尾角は、イギリスでアニメーションを学んだのち、コラージュを基盤としたアニメーション作家として活動をはじめました。断片を切り取り、重ね合わせ、新しい物語を立ち上げるその方法は、近年のインスタレーションやVRといった多様なメディアへと展開しても、一貫して彼女の制作の根幹にあります。神話や哲学から量子力学などの現代科学に至るまで、幅広い領域への関心をもとに異なる要素を結び直すその姿勢は、常に「コラージュ」という思考に支えられています。
尾角が茨木でのリサーチでまず着目したのは、「堆積層(地層)」という視点でした。物質や記憶が時間とともに積み重なり、断絶や変容を経て新たな景色を生み出す。そのプロセスを、彼女は「茨木市をかたちづくってきた人々の声」を素材として収集し、コラージュの技法に重ね合わせました。さらにAIという異質な技術を共存させることで、アナログとデジタルが交錯しながら、土や植物が育まれる「庭」のように生成と循環を繰り返す空間を構築します。人々の声はコラージュの断片であると同時に、この土地と未来をつなぐ層となります。本展では、来場者は単なる観客にとどまらず、この循環を担う一つの要素として加わり、新たな時間の層を共に築いていきます。 会場となる福祉文化会館会館は、長年地域で親しまれてきましたが、まもなく取り壊される予定です。本展を通して来場者に手渡される花の種が、この場所がなくなってもそれぞれの生活の中に芽吹き次の土壌へとつながっていけば幸いです。
アーティストステートメント 尾角典子
私の関心は、「変容」するものそのものです。土地に根ざした民話や語りのように、時代や人々の手を通して形を変えながら受け継がれていくもの、そして現代ではデジタル技術を介して新たな形へと変容していく物語にも強く惹かれます。それらは単なる物語ではなく、物理的な土地や環境とも絶えず影響しあう、生きた情報のエコシステムだと捉えています。こうした情報の循環や変容の過程に注目するなかで、私は記憶や土壌、環境の断絶という現実にも目を向けるようになりました。
かつて出来事は土に積み重なり痕跡を残していましたが、アスファルト化によってその記録は途絶えつつあります。しかし一方で、人工的に整えられた風景や造花のような模倣も、新たな「堆積層」として読み解けるかもしれません。テクノロジーが自然や記憶に介入する現代において、私たちが「時空を超えたエコシステムの一部」 として循環を捉え直すことは、新しい視点を得るために欠かせないと感じています。
茨木での制作では、市民の方々と出会い、声を聞くなかで、多様な時間と関係性が折り重なって存在していることを実感しました。人々は日々の営みを通じて街をひとつの「庭」として育んでいます。その営みはやがて層となり、 痕跡となり、掘り起こされ、新しい景色を生み出す養分へと変わっていくでしょう。
今回の展示「生成の庭」では、そうした声を集め、デジタルとアナログを交差させ、土の循環を意識しながら、生きた場をつくることを試みました。庭のように要素は互いに作用し合い、芽吹き、変化していきます。リサーチ期間中のワークショップでは、参加者が言葉をコラージュし循環させることで、新しい景色や関係性を発掘しました。来場者もまた、この庭の循環の一部として関わり、未来へつながる種をまいていく存在となります。 さらに、この会場に飾られていた薔薇の花は、都市や人、時間との関係性を示す象徴として響きました。そして会場が来年取り壊されることも、生成と消失、循環のメタファーとして本展示に重なっています。「生成の庭」は、完成された作品ではなく、関係性の循環そのものを体験する場です。この庭に立つことで、来場者自身もまた都市や他者、技術、土とのつながりを感じ取り、新たな視点の種を持ち帰っていただければと願っています。
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作家プロフィール
尾角 典子 Noriko Okaku
1979年京都生まれ。2005年Royal College of Artアニメーション修士。
2003 年 Chelsea College of Art and Design ファインアート・メディア卒業。
ロンドンと京都を拠点に活動。哲学や科学、神話や民間伝承など多様な要素を組み合わせながら、コラージュを中心にアニメーション、インスタレーション、パフォーマンスなど幅広い表現を展開している。VRやAIなどの最新技術も取り入れ、解釈や意味の揺らぎを探る作品を生み出している。
主な展示やパフォーマンスに「# 拡散展」(十和田市現代美術館 space、2024)、「THAT LONG MOONLESS CHASE / その長い月のない追跡」(金沢21世紀美術館 &21+、2023)、「VOCA展 2019(上野の森美術館、東京)、「The Interpreter」(QUAD Gallery、イギリス、2015)など。
HUB IBARAKI ART PROJECT2025
尾角典子「生成の庭」会期:2025年12月4日(木)〜21日(日) ※木〜日曜のみの開催
会場:茨木市福祉文化会館(オークシアター)3階
時間:12:00〜19:00
入場料:500円(花の種付き)
※大学生以下無料(学生証提示要)
※茨木市在住・在勤者は平日のみ無料(要証明書提示)、土・日・祝は市外・市内問わず入場料500円関連プログラム
アーティストによる展覧会ツアー
尾角典子とともに展示室を回りながら、展覧会の意図や作品の解説を行う。
日時:12月4日(木・初日)、14日(日)、20日(土) 13:00〜/各30分
会場:茨木市福祉文化会館(オークシアター)3階
参加料:無料(展覧会入場料別)
※要予約 https://ws.formzu.net/sfgen/S36664627/言葉と視点の刺繍ワークショップ
展覧会場をめぐり、そこで見つけた言葉や印象を布に刺繍する。刺繍した布は尾角がポーチに仕立て、後日参加者に渡される。手芸が初めてでもOK。
日時:12月7日(日)13:00〜17:00頃
集合:茨木市福祉文化会館(オークシアター)1階|茨木市 市民総合センター【クリエイトセンター】 1階 喫茶・食堂
参加費:3,500円(展覧会入場料込み)
定員:10名
※要予約 https://ws.formzu.net/sfgen/S1939088/アーティストトーク
アーティスト本人が作品背景や本プロジェクト・作品について話す。
日時:12月13日(土)14:00〜15:30
会場:茨木市 市民総合センター【クリエイトセンター】 1階 喫茶・食堂
参加費:500円(お茶付き)
※要予約 https://ws.formzu.net/sfgen/S84617279/問合:公益財団法人 茨木市文化振興財団 TEL 072-625-3055(10:00〜17:00) info@hub-ibaraki-art.com
茨木市福祉文化会館(オークシアター)
茨木市駅前4-7-55



