2022年2月、大阪在住のライター・スズキナオの著書『「それから」の大阪』(集英社新書)が刊行された。自身が身を置く大阪のまちの表情や変化を綴った1冊となる。
大阪は「密」だからこそ魅力的だった。
そんな大阪の町はこれから変わってしまうのか、それとも、変わらないのか──。
2014年に大阪に移住した著者が「コロナ後」の大阪を歩き、人に会う。
万博開催予定地、40年の営業に幕を下ろす立ち飲み店、閑散とした道頓堀界隈、自粛要請に振り回される屋台店主、ベトナムに帰れず大阪で1年以上を過ごすアーティスト、町を練り歩くちんどん行列、新世代の大衆酒場、365日朝6時から営業する銭湯、ド派手な巨大看板をつくる工芸店……。
非常時を逞しく、しなやかに生きる大阪の町と人の貴重な記録。(集英社Webサイトより引用)
まちには、観光客が楽しむために用意された賑わいと、住む人が自ら見出し楽しむ賑わいがあると思う。大阪においても同様で、著者が推すのは、大阪と聞いて一般に想起されるステレオタイプなイメージとは違ったささやかな日常の賑わいだ。目次を見てもわかるように、大阪の西東を歩き、上って下って眺めた大阪のさまざまなありように、コロナ禍の困難な状況が書き加えられる。
【目次】
第1章 天満あたりから歩き始める
第2章 万博開催予定地の「夢洲」を遠くから眺める
第3章 大阪の異界「石切さん」は“西の巣鴨”か
第4章 西九条の立ち飲み「こばやし」最後の日々
第5章 コロナ禍の道頓堀界隈を歩く
第6章 屋台も人も消えた、今宮戎神社の「十日戎」
第7章 夢の跡地「花博記念公園」の今
第8章 船場の昔と「船場センタービル」
第9章 中止と再開を繰り返す四天王寺の縁日
第10章 ベトナムに帰れぬ日々を過ごすアーティスト
第11章 緊急事態宣言明けの西成をゆく、ちんどん行列
第12章 “自分たち世代の大衆酒場”を追求する「大衆食堂スタンドそのだ」
第13章 朝6時から365日営業し続ける銭湯「ユートピア白玉温泉」の今
第14章 道頓堀を立体看板でド派手に彩る「ポップ工芸」(集英社Webサイトより引用)
この、大阪の愛すべき日常風景をつくってきたのは、この地でたくましく生きてきた人々である。外からやってきた者としての新鮮なまなざしをもって、市井の暮らしに丁寧に寄り添う取材は、内輪にとどまらない、まちと人の魅力を伝える。
本書には、ユートピア白玉温泉の2代目・北出守氏をはじめとする生まれも育ちも大阪の人や、ちんどん通信社の林幸治郎氏のように府外の福岡からやってきた人、また、ベトナムから訪れ2ヶ月の間大阪に滞在するつもりが、コロナ禍で帰国できず2年近く暮らし続けているアーティスト、トラン・ミン・ドゥック氏のように、海外から訪れた人も登場する。
古来より大阪には多くの人がやってきて、まちがつくられてきた。ある日、外からやってきて、まちの「内向きさ」に困惑しつつ魅せられ、徐々に馴染んできたという人々がここにはたくさん住んでいる。また、本書の筆致から見えてくるのは、聞き手である著者もそのひとりとして、このまちに入り込んでいこうとする姿だ。筆者自らの実践によって、大阪の日常を外向きにひらこうと試みた本なのである。
著者:スズキナオ
定価:924円(本体840円+税)
判型:新書判・並製
頁数:240ページ
発刊:2022年2月
発行:集英社