天満の工芸品店・アートギャラリー「gallery, あるゐは」。店内には店主の大室友子さんが心から好きなものが並び、内装も器もジュエリーもそれぞれに愛溢れる話があり、それを聞きたくていつも長居してしまう。そんな彼女の愛する作家のひとりがcoeur ya.だ。私も店頭ではじめて作品を見たとき、その幾何学的で繊細な美しい形にドキドキした。今回は、gallery, あるゐはで開催された『coeur ya.作品展「次元」』について、レポートをお届けしながら、その魅力について考えたいと思う。

彫金作家であるcoeur ya.さんは、学生の頃から彫金を学び、1998年より作家活動を開始。銀や真鍮を用いて、シンプルでありながら存在感を放つ作品を制作している。今回の個展は、すべてが「次元」をテーマにした新作。普段制作されている作品のほとんどはアクセサリーに昇華されているが、本展にはオブジェを中心とした作品が並び、ギャラリー中央には今回のテーマにあたる0次元から4次元までを表現した作品が展示されていた。光に照らされたそれらは、壁面や展示台に映る影までもグラフィカルでとても美しい。

通常時のギャラリーとはまったく違う会場の様子に、展示に合わせて、作家の作品・意図するイメージなどを最大限伝えたいという大室さんの熱意も伝わってくる。アクセサリーではなくはじめてオブジェを中心とした個展となる。どういった経緯があったか、大室さんに尋ねると、「アクセサリー作家として知られているcoeur ya.さんですが、彼女の作品の素晴らしさはその造形にあるのではと考えていました。なので、今回はより“物体”そのものに焦点を当てることを試み、オブジェや花器、モビールといったものを多くつくっていただいています」と語ってくれた。

展示作品はcoeur ya.さんの感性により、それぞれの形に言葉が当てがわれている。「7-3 | 然る可きところ」・「8-4 | 言わば」・「9-4 | 或いは」など、一つひとつに数字（座標）と言葉が添えられており、好奇心をくすぐられる。

たとえば、今回の展示では線の円柱に「然り」という言葉が当てはめられており、写真（上）の「7-3 | 然る可きところ」という作品は、上から順に歪だった形がだんだんと丸くなり、然るべきところにおさまるという流れを表したモビールだ。その意味と形の関係性に思いを巡らせると、また違う側面から作品を楽しむことができる。

coeur ya.さんに、言葉とのつながりや、ディスプレイの楽しみ方について話を聞いた。

「この作品は、『あらゆる』といいます。大小あわせて19個の線の立方体と、面で立体に構成されたオブジェの組み合わせです。その名前のとおり、重ねたり、並べたりすることで“あらゆる”姿を見せてくれます。さっきは子どもが遊びながらさまざまな形をつくってくれていました」

空間と作品との間合いが変化して、また違う姿を楽しむことができるその様子からは、建築的な要素が感じられる。

「昔から建築物が好きで、それらからインスピレーションを受けているからかもしれません。普段はアクセサリーをつくっていますが、アクセサリーをつくろうと形を考えるのではなく、気になった建築やそれらの造形、言葉、自然現象などメモに残しながら、頭に浮かんだものを形にしています。次に、その形をどう身体に合わせていくのかを考えながらアクセサリーにしています」とcoeur ya.さん。彼女のアクセサリーが、点や線・面など幾何学的な形をしながらも、身につけると不思議としっくりとくるのは、身体と“かたち”の関係性と向き合っているからかもしれない。

今回は、身につけるものではなく、言葉と次元を連動させた置物や一輪挿しなどのオブジェを中心として制作していたが、考え方はこれまでと一貫している。

coeur ya.さんは「思いついた形をどのように空間と合わせていくかを考えながら制作していました。大きさは違いますが、造形するプロセスは同じです。ただ、座標と言葉を添えるというテーマに制作当初は、なんてややこしいことをしてしまったんだ……と苦労しましたが、徐々にピントを合わせていくことができました」と言う。

“かたち”に軸が置かれることで、これまでのアクセサリーとしての側面だけではなく、その造形自体のもつ美しい佇まいや彼女の思考を垣間見ることができた『coeur ya.作品展「次元」』。彼女の新境地に、ワクワクした人も多かっただろう。本展を経て、次回はどんな作品を見ることができるのか。これからもその歩みを追っていきたい。