中之島にある大阪市立東洋陶磁美術館が、2024年4月、約2年間の休館、改修工事を終え、リニューアルオープンした。
新たにガラス張りのロビーが増築され、そこからは目の前に大阪市中央公会堂を望み、リバービューも楽しめる併設の「café KITONARI」ともども、絶好のロケーション。中之島一の “映え” スポットとして、SNSでも話題を呼びそうだ。
リニューアルへの期待と不安に応える、3つの「シン」
世界有数の東洋陶磁コレクションで知られる同館。それだけでない。中国青磁の頂点が奇跡的に集った「台北 國立故宮博物院―北宋汝窯青磁水仙盆」(2016年)、明治の超絶技巧「没後100年 宮川香山」(2016年)、四世田辺竹雲斎の巨大インスタレーションが圧巻だった「竹工芸名品展:ニューヨークのアビー・コレクション-メトロポリタン美術館所蔵」(2020年)など、企画展でも、唯一無二の孤高ぶりと底なしの見応えで観客を圧倒してきた。それゆえ、約2年の休館とリニューアルには「どうか、変わってませんように」と、期待と不安を抱いていたファンも多かったことだろう。そこに、リニューアルオープン記念特別展のタイトルが「シン・東洋陶磁―MOCOコレクション」と来た。若干“日和った”感は否めない。「え? どういうこと?」と小さくドン引いた。
「“シン”には、いろいろな意味を込めています」「実は、そうした不安の声は、ほかからも上がってはいたんです」と、学芸課長代理の小林仁さん。「リニューアルでは、外観的な部分だけに目が行ってしまう危惧もあったので、肝心の展示環境や見せ方は、今までのいいところを踏襲しながら、なおかつ、グレードを高くする工夫をしました」
ホッと安心。「シン」には、「新」たなミュージアムへと歩みはじめること、「真」の美しさとの出会い、「心」がワクワクする鑑賞体験を、という3つの願いが込められていたのだった。
「シン」は、もうひとつある。同館の収蔵品の「芯(コア)」となる「安宅コレクション」だ。一企業人の安宅英一が20年以上、会社の事業の一環として70億円以上を投じ、中国陶磁、高麗・朝鮮時代の陶磁の名品優品だけを約1000点収集。戦後形成された東洋陶磁コレクションとしては最高峰のクオリティで、うち2件が国宝指定されている。
国宝《油滴天目茶碗》の真の美しさを、
世界ではじめて360度見る&触れる
その国宝の1件《油滴天目茶碗》の「真」の美しさを体感できる「新」コーナーがふたつ登場した。ひとつは、透明度の高い高透過ガラスの独立ケース。自然光に近い紫励起LEDによるベース照明に、茶碗内部を浮かび上がらせるスポット照明が加わり、この茶碗独特の油滴のような斑文と虹色の光彩が、銀河のようにキラめく。今までも最高に美しいと思っていたが、もっと美しかった!
さらに、この《油滴天目茶碗》を超高精細3DCG化。茶碗型コントローラーを手で動かしてCG映像を好きな角度で鑑賞できる、体験型デジタルコンテンツも登場した。「ゲーム的にも楽しいけれど、触れて『こんな形なのか』と感じていただいて、現物を観たときにもう一歩深く、鑑賞の精度を上げてもらえるように」と小林さん。茶碗映像の背景が茶室っぽいのも心憎い。ど厚かましい妄想ももう一歩、深く「もしも足利将軍の茶会に招かれたら……」と、ニヤケが止まらない。
光を操る展示で、「心」にまで届く鑑賞体験を実現
陶磁器は自然光のもとで最高に美しく鑑賞できるとされる。そのため同館では展示物が「真」の美しさを発揮できるよう、世界初の「自然採光展示室」を設置、加えてリニューアル後には、自然光にもっとも近いとされる「紫」励起(れいき)LED照明を導入した。柔らかな光を浴びてしっとり輝く陶磁器の質感。まるで眼で触れているように官能的な鑑賞が叶う。
実はその照明も、展示ごとに繊細に調整されている。「韓国・朝鮮陶磁は、落ち着いた空間のなかで集中して観ていただき、大きくて力強い中国の作品は、明るい環境で観てほしい、と展示の照明を設計しています」と、主任学芸員の鄭銀珍さん。設置の仕方もしかり。「物と物の間隔は1ミリ単位で調整し、調和がとれるようにしています」。こうした配慮があって、観客は作品の魅力を、知識や情報を超え、空間の雰囲気を通して体感できる。「やきものはわからない」と敬遠する人にこそ、「心」で展示室で名品のオーラを楽しんでほしい。
猫か、虎か? 謎を秘めた新マスコット「mocoちゃん」
リニューアルで新登場したのが、マスコットのmocoちゃん。朝鮮時代の青花(染付)の壺に描かれた動物で、その作品名には《青花虎鵲文壺》とあるので、虎とされているようなのだが、どう見ても虎ではなく猫。その謎については、目下調査中だとか。
ほかにも、マスコット級のかわいい作品はある。《加彩婦女俑》は、中国・唐の王朝美人で、愛称は「MOCOのヴィーナス」。《鉄絵 虎鷺文 壺》の虎は、まつ毛の主張が愛らしい。そして艶肌がまぶしい有田の相撲人形。フィギュアだけではない、クールな現代陶芸作品もある。館内で、あなたの推しを見つけてほしい。
国宝が食べられる?! 付属カフェ「café KITONARI」
さて、鑑賞後はお茶でも……とカフェに行くと、メニューにまで国宝があり、驚愕した。緑色の釉色に鉄斑が飛ぶ、国宝《飛青磁花生》そっくりのドリンクは、チョコレートをデコレーションしたグラスに注いだ抹茶ラテ。ほかに、重要文化財《木葉天目茶碗》チョコレートムースもある。
名品で眼福、おなかいっぱい。隅々にまで陶磁器への愛に満ちた、至福の美術館が帰ってきた。
リニューアルオープン記念特別展
「シン・東洋陶磁―MOCOコレクション」会期:2024年4月12日(金)〜9月29日(日)
会場:大阪市立東洋陶磁美術館
時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
料金:一般1,600円、高校生・大学生800円
休館日:月曜(祝日は開館)、5月7日(火)、7月16日(火)、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)
問合:06-6223-0055
大阪市北区中之島1-1-26