北浜のショップ・NEW PURE +にて、2022年6月11日(土)~26日(日)にかけ、アニメーション作家・ぬQの大阪では初となる個展「3ぽ!」が開催された。
服や雑貨などが並ぶ1階のショップを横目に、地下のホワイトキューブへ降りると、鮮やかな色彩で描かれたキャラクターが存在感を放つ、大小さまざまな絵画作品が並んでいた。
ぬQさんは多摩美術大学大学院博士前期課程デザイン専攻グラフィックデザイン領域修了後、キャラクター「一郎」と「ふたこ」が動き回るアニメーション作品を中心に、CM、MV、キャラクターデザイン、装画など幅広く活動している。今回の個展に寄せて、彼女は以下のような言葉を綴っていた。
世の中が変化してからある程度の時間が経ち、私たちは以前より前向きに、少し外に出てみようか、という気分になっています。
1歩、2歩、3歩。新しい世界に生まれ、「日常というものをはじめてやる人」の視点に立ち、この3歩間にある大小をつぶさに見つめ、冒険するような作品を飾ります。
閉塞的な時間を長らく過ごし、少しずつ日常が戻ってきたと実感する今日この頃。きっと、多くの(それも世界中の)人が、このテーマと自分を重ねずにはいられないのではないだろうか。作品と対面したはじめは、日常を謳歌するキャラクターたちの漲るパワーに圧倒されていたが、じっくりと向き合ううちに、近頃の自分の心情へと自然に重なっていくようだった。
展示空間では、カラフルなキャラクターたちが織り成す「ぬQワールド」が繰り広げられている。今回の絵画作品に描かれていた、「一郎」「ふたこ」「さよちゃん」。彼らは、ぬQさんのほかの作品にもいつも登場するキャラクターだ。本展鑑賞に立ち会ってくださったNEW PURE +店主・大井秀人さんが、「アニメーション作品もぜひ観てください」とおすすめする『ニュ~東京音頭』にも、「一郎」と「ふたこ」が現れる。
お馴染みのキャラクターが独特の世界を繰り広げる、ぬQさんならではの表現についてお聞きしたく、後日メールでコメントをいただいた。
「キャラクターをとても大切にしています。幼い頃から、物語の途中でまったく音沙汰がなくなってしまうキャラクターたちのその後が気になっていました。幸せに過ごしているかな……と。キャラクターは私にとって本当に生きている“命”と同じで、作者として一生分の幸せを用意してあげたいと思っているんです。なのでクライアントワーク、オリジナル作品問わず、一郎、ふたこ、さよちゃんが登場しています。PR内容や展示のテーマにあわせて、コスチュームも変化。今回の展示は、『3ぽ!』(散歩や、3歩以内=身近)のイメージから、キャラクターがアリとキリギリスになっています」
今回は絵画という形式だったが、今にも彼らが動き出しそうに感じられたのは、作品世界を自在に行き来する、いきいきとした存在感が故かもしれない。
ほかにも今回、ぬQさんの作品で魅力的だと感じた表現のひとつが、いろいろな場面に現れる食べ物である。モチーフとして多く取り入れている理由を伺うと、「私にとって食べ物は、文字通り食べ物であると同時に“すべてのアイテム”です。飛行機や船、車、トランポリンや枠など、なんにでも見立てています。今回の個展では、ホットドッグを“犬”として描きました」と、ぬQさん。
また、はっきりとした色面構成から、一見はフラットな印象を受けるが、犬の餌のスチールトレーや芝生など、ディテールの質感はリアルに際立つ。あらためて作品全体を見渡すと、奥行きが感じられてくるのだ。一体どのような手法で描かれているのだろう? そう思いキャプションを読むと「Canvas print」とある。店主の大井さん曰く、「タッチペンではなく、指で描いていると聞きましたが……」とのこと。そうしたデジタル画の制作手法についても、ぬQさんはこのように解説してくださった。
「キャラクターはiPadのペンで描きますが、それ以外の描画や彩色はすべてノートパソコンのタッチパッドを使い、指で行っています。なぜかというと、タッチパッドをクリックしながら描くほうが、ペンで描くよりグラデーションが正確だから。人工的に見えるので、プラスチックやビニールのような光沢感が出しやすく、おもちゃのようなポップさ、可愛らしさ、固い質感が表現できるかなと行きついた方法です」
カラフル&ドリーミーでありながら、現実生活のリアリティが同居するぬQさんの作品。彼女が今回描いた3歩間の景色を見ていると、あらためて「日常は最高だな~」という感情がふつふつと湧いてきた。これから来る新しい日々を、作品に登場するキャラクターたちのように、まずは“3歩間”を意識して過ごしてみようと思う。
ぬQ個展「3ぽ!」
会期:2022年6月11日(土)〜26日(日)
会場:NEW PURE +