演劇、パフォーマンス作品や、映像作品の企画制作をおこなうユニット「ハイドロブラスト」の新作公演「最後の芸者たち」が、西成の3Uにて上演される。
「路地裏の舞台にようこそ2022」参加作品。
本作品を手がけたきっかけは、「ハイドロブラスト」主宰の太田信吾と、城崎温泉”最後の芸者”の秀美さんとの出逢いだという。太田は2021年秋より、秀美さんによる芸事の稽古、現役芸者への取材などの調査を重ねてきた。
ドキュメンタリー映画の手法と俳優の技能とを併せ持つ太田ならではのやり方で芸者文化にアプローチし、文化の継承、エンターテインメント・システムとヒエラルキー、身体的性別と性自認といった事柄を考察した上で、俳優2名と音楽家1名による舞台作品を創作。
職業としては日本各地から消えつつある一方で、日本の接客や美意識を伝える存在と捉えられている芸者文化の「おもてなし」の演出を、俳優の身体を通し観察することを試みる。
演出家・市原佐都子の作品への出演で注目を集め続けている俳優の竹中香子、あらゆる音楽シーンを横断し即興演奏と作曲の融合を図る内橋和久などの出演者を迎え、太田がこれまでの調査をどのようなパフォーマンス作品に昇華させるのか、注目だ。
作・演出 太田信吾コメント
2022年6月26日。京都の元舞妓さんによる芸妓業界への告発を拝読し震えました。
ちょうどわたしは本作「最後の芸者たち」の創作過程の最中にあり各地で芸者文化の取材を進めていました。
創作のきっかけは、城崎温泉”最後の芸者”の秀美さんとの出逢いでした。
「いつかお姉さんと呼ばれたい」そんな想いで芸者として活動、また後進の指導にも長年携わってこられた秀美さんでしたが、働いていた城崎温泉では三十年以上前に芸者文化の灯火が消えつつありました。足元を見つめると、自分の生まれ育った長野県の戸倉上山田温泉でも同様に芸者文化が潰えようとしていました。脈々と続いてきた文化が、なぜ…?
その答えが知りたくて始めた取材過程で、いつしかわたしはペンやカメラより自分の身体をキャメラとして記録・思考の媒体として使いたいと考えるようになり、芸者修行を始めました。わたしの身体というキャメラは業界健全化に向け動く方々や芸を愛する方の想いを身近で映す一方で、性差別、長時間労働、フードロス、型にはまった踊り、セクハラパワハラ、広告と観光の癒着行政など違和感を映すことも多々ありました。
だけれどもネガティブなことだけではありません。
限られた椅子しかないお座敷で自身は立ち、修行中の私を椅子に座らせて下さったお姉様がいます。 芸者のギャラの中抜き・芸者に金銭知識を持たないよう強いる検番に果敢にも単独交渉を挑んだお姉様もいます。セクハラを強いる客にお座敷を中断したお姉様もいます。 女型芸者としてお座敷に立つ男性のお姉様もいます。 捨てられる着物を自ら回収しアップサイクルされているお姉様もいます。
美は形や型式、金の対価ましてや芸者という職業にあるものではなく、人間の生き様に感じるものだといつしかわたしは考えるようになりました。
私は作品そのものが直接的な告発やイデオロギーとなることに抵抗があります。
舞台芸術やドキュメンタリーに備わる社会を批評性を持って見つめるための鏡としての機能を信じています。
時代の記憶を宿すメディアとしての踊り。
一方で、時に高額な代金、お座敷という閉鎖空間で、権威や見栄を保つためにそれが浪費される踊り。
一筋縄には語れない芸者文化への複雑な想いを、この作品に込めました。
脈々と続いてきた文化が、なぜ…?
その答えを、皆さんと探りつつ、芸者文化の未来を探りたいと思います。
皆さまのご来場を心よりお待ち申し上げます。
太田信吾(ハイドロブラスト主宰)
–
太田信吾 おおたしんご
映画監督・俳優。ハイドロブラスト主宰。処女作の映画『卒業』がイメージフォーラムフェスティバル2010優秀賞・観客賞受賞。初の長編映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2013 で公開後、世界12カ国で公開。近作に映画『解放区』など。俳優としてはチェルフィッチュ『三月の5日間』香港公演(2010年)にて初舞台出演後、演劇作品のほか、映像作品等に出演。2022年、志賀直哉の短編小説に着想を得た『現代版 城崎にて』(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2022優秀芸術賞受賞)が公開予定。また、出演作品『わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド』(テキスト・演出=岡田利規)が9月1日より彩の国さいたま芸術劇場にて上演。
ハイドロブラスト 第3回公演「最後の芸者たち」
日時:2022年9月18日(日)19:00〜、19日(祝・月)17:00〜
会場:3U
作・演出:太田信吾
出演:竹中香子、大崎晃伸、太田信吾
演奏・音楽:内橋和久料金:2,000円(「路地裏の舞台にようこそ2022」1公演予約券として)
*予約券申込URL https://www.quartet-online.net/ticket/hydroblast*兵庫公演
日時:9月24日(土)、25日(日)
会場:城崎国際アートセンター スタジオ1
*豊岡演劇祭2022 フリンジ【Selection】作品
3U
大阪市西成区荻之茶屋1-4-20