「考える手」を使って作り出し、「滞空する目」で見続けること。
20数年間、毎日コンビニエンスストアで自身の顔面をコピーし続ける井口直人さん。我々THE COPY TRAVELERSが名古屋に会いに行ったその日も毎日のルーティンを崩すことなく、身体ごとコピー機のガラス面の上に乗り出して顔面を押し付けてコピーしていた。ダイナミックな姿もさることながら、タッチパネルでいくつかの設定を決定していく、その手に目を奪われた。早くスタートボタンを押してコピーしたい井口さん、しかしその前にコピーの用紙サイズやカラーを決定せねばならず、まどろっこしさからか、とにかく強く速いスピードでタッチパネルを叩き、スタートボタンを押すまで瞬時に事を進めていく。スタートボタンを押した瞬間、その手はコピー機の上に置いた自分のタオルをつかみ、スキャンする光がガラス面を通過する間、押しつけた顔は全く動かさず、タオルを掴んだ手はずっと動かし続けていた。
井口さんがコピーする姿や我々の制作プロセスを見返していると、コピー機の上での手捌きや何かを決定していく際の手の動きにそれぞれの違いを見出すことができる。
コピー機の特性は対象を正しく複製することにあるが、我々は計画通りにいかないことやコントロールしきれないことも期待しながらコピー機のスタートボタンを押している。それでは何も考えず適当に手が掴んだものだけでイメージを作っているのかと問われるとそういうことでもない。頭で考えてから手を使って実行すること、はたまた頭より先に手を動かすこと、そのどちらでもあって、どちらでも無いような状態、いわば「考える」ことができる「手」がそこには存在しているように思う。コピー機から出力された大量のイメージをテーブルに並べてみる。意味や構造、色彩、形態、あらゆる意図と偶然が混在するそれらの前に立ち、思考を巡らせたり、はたまた全く他のことに気を取られたりしながらも様々な角度から見続ける。「滞空する」ことしかできない「目」で眺め続けることで、いつしか作品か否か、失敗か成功かといった、あらかじめこちらが想定していた境界線から徐々にずれはじめ、只々それとして存在するということが可能になるように思う。
「考える手、滞空する目」は井口直人とTHE COPY TRAVELERS、二組(4人のコピー師たち)による展覧会です。
本展は、毎日コピー機に身を乗り出して自らの身体をコピーし続けてきた井口直人と、コピー機やカメラを用いて日々実験を重ねるTHE COPY TRAVELERSの二組が作り続けている膨大なイメージと、二組が講師となって行われたワークショップを記録したドキュメント映像、THE COPY TRAVELERSの制作過程の目線を捉えた映像などを通して、それぞれの「考える手」と「滞空する目」を立体的に展開しようとする試みです。THE COPY TRAVELERS
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井口直人|Naoto Iguchi
1971年生まれ。三重県出身、名古屋市在住。1987年より、社会福祉法人さふらん会さふらん生活園に所属。2003年から、コピー機に自らの顔を押しつけてプリントする「自撮り」を開始。ほどなくして近所のコンビニエンスストアでも朝夕同じ行為を行うようになり、現在まで続いている。
近年の主な展覧会に、「とある美術館の夏休み」( 井口直人× 岩沢兄弟 千葉市美術館、千葉、2022)、「ROUTINE RECORDS at 金沢21世紀美術館・ヘラルボニー」(金沢21世紀美術館、石川、2022〜23)などがある。THE COPY TRAVELERS
京都を拠点として活動する美術家、加納俊輔、迫鉄平、上田良によって2014年に結成されたユニット。
「複製」という手法の可能性について、コピー機やスキャナ、カメラなどのツールを用いて、日々、実験に勤しんでいる。アートブックの出版をはじめ、展覧会、ワークショップなどの活動を行なっている。
近年の主な展覧会に、「日常をととのえる」(はじまりの美術館、福島、2022)「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」(東京都現代美術館 、東京、2019)などがある。(主催者より)
会場A 茨木市立ギャラリー
会期:2023年8月4日(金)~22日(火)
時間:10:00~19:00 ※最終日は17:00まで
休館:8月16日(水)会場B 茨木市市民総合センター 喫茶・食堂スペース、Socio-1 2Fウインドウ、みるば
会期:2023年8月4日(金)〜27日(日)※会期中無休
時間:10:00~19:00
※期間中無休、市民総合センターのみ8月19日(土)、20日(日)休館関連イベント
アーティストトーク
出品作家であり、企画者であるTHE COPY TRAVELERSと井口直人氏の制作を間近で眺め続けてきたさふらん生活園代表の水上明彦氏、そしてゲストに美術家の高橋耕平氏を迎え、作品制作やそのプロセス、本展覧会についてお話します。
日時:8月6日(日)14:00頃~15:30頃 ※予約不要
会場:茨木市市民総合センター3F302号室
出演:THE COPY TRAVELERS、水上明彦(さふらん生活園)
ゲスト:高橋耕平(美術家)アラジン屋
さふらん生活園による”荒物屋”とTHE COPY TRAVELERSがセレクトする”ZINE SHOP”が3日間限定で市民総合センターにてオープンします。
日時:8月25日(金)~27日(日)
会場:茨木市市民総合センター迫鉄平の夜話 第4夜 「この映画のこのショットを見てください!」
2014年から不定期に開催している、THE COPY TRAVELERSの迫鉄平氏による、その時々の興味関心をトークテーマに据えたのんべんだらりの3時間。
日時:8月26日(土)18:00頃~21:00頃
会場:茨木市市民総合センター喫茶・食堂スペース
出演:迫 鉄平(THE COPY TRAVELERS)問合:茨木市 市民文化部 文化振興課 072-620-1810
茨木市永代町1-5
阪急茨木市駅ロサヴィア2F
茨木市駅前四丁目6-16