繰り返される言葉とイメージの連鎖が、眠った感覚を覚醒させる
観る者を思考に導く哲学的で詩的な言葉の嵐と、リアリティーの次元から引き剥がされたような演技、大胆に景色を切り取る様な映像が不思議な魅力を醸し出し、世界の映画祭で高い評価を受けた本作。
その中でも特に高く評価されたのは、現代の東京をディストピア的に捉えたその映像美と、研ぎ澄まされた音響だった。
監督/撮影を務める北尾和弥の都市をフレームで抉り取るような画面構成や光と影の捉え方は、そこにある景色を全く別の劇空間へと変質させ、全てアフレコで再構築され徹底的に無駄を削ぎ落としながらも雑味たっぷりな音響が、静かにその空間を漂いながら時にフレームを壊してしまいそうなほどに鋭く襲い掛かる。
これらはアンドレイ・タルコフスキーやタル・ベーラ、アピチャッポン・ウィーラセタクンらを思わせる不思議な時空感覚、マルグリット・デュラスやストローブ=ユイレ、更にはハル・ハートリーの影響をも感じさせる浮遊するような言語感覚と相まって、映画に独自の世界観と圧倒的な強度をもたらし、言葉や文化の壁を超えて観客の心に爪痕を残した。
都市を彷徨いながら『何か』を探す女を演じるのは、パフォーマー/アーティストとして活躍する石川理咲子(Ree)。その身体による表現力は、漂白されて構築され直した歪で美しい世界の中に儚くも屹立し、唯一存在を許されたかのように光と闇の狭間を闊歩する。
『私はどこから来たのか、何者なのか、 どこへ行くのか、そしてあなたは・・・』
この映画は、多様で複雑なテーマを持つ歪で大きな塊だ。
観る者全てがすぐに “普通ではない” と感じる映画だろう。しかしただの “異質な映画” ではない。
これは、他ではまず感じる事のできない 異様で刺激的な “全く新しい映画体験” を産み出す、未だ誰も見たことがない装置なのだ。
体験せよ。思考せよ。–
STORY
共に暮らしていた男が突然姿を消した。
部屋に残された無数の写真。
女は写真に写った場所を探し始める。不安定さを増す現代の東京を写真を手に彷徨い歩きながら、
女は4人の人物に出会い会話を重ねていく。失うことへの不安、焦燥、自らが信じていたものへの疑問、、、
様々な想いを掻き立てられながら、次々と立ち現れる“問い”に内なる対話を深め、
女は、自らの中にあったはずの何かを埋め戻そうと足掻く。なぜ、何に、足掻くのか。
彼女のたどり着く先とは、、、
そしてあなたは――(公式サイトより)
映画『私はどこから来たのか、何者なのか、どこへ行くのか、そしてあなたは・・・』上映
期間:2023年8月5日(土)〜11日(金)
会場:シネ・ヌーヴォ
時間:19:40〜(8月10日・11日は20:00〜)
料金:一般1,800円、全国共通前売券1,500円、大学生1,100円、高校生/中学生/小人1,000円、シニア1,200円、障がい者1,000円、会員1,100円
サービスデー:水曜日1,200円 カップルデー:月曜日2,400円/2名監督・脚本・撮影・編集:北尾和弥
日本/2019年/カラー/16:9/DCP/137分 製作: CNSS
大阪市西区九条1-20-24