
心斎橋のMarco Galleryにて、髙橋穣の初個展「Sense of Wonder -幽⽞-」が開催される。
髙橋は1999年東京生まれ。東京芸術大学大学院 美術研究科彫刻領域在籍中。
2023年から、東京と茨城県笠間市の2拠点で制作を行う。
物体と万有引力の関係に着目し、彫刻を通して介入することで、未開の力を探求している。
ステートメント
初個展 「Sense of Wonder-幽玄-」によせて本展のタイトル「Sense of Wonder」は、海洋生物学者レイチェル・カーソンが1965年に遺した著書に由来する。カーソンは、自然界に潜む神秘や秩序にふれたときに湧き上がる、畏怖と驚きの感覚をこの言葉で表した。それは、知識に先立ち、世界の奥に触れようとする人間の根源的な感受性であり、生涯を通じて持ち続けるべきまなざしであると彼女は説いた。
私は彫刻家として、重力、遠心力、植物の成長、漂着物の軌跡といった、目に見えない自然のふるまいに関心を寄せてきた。それらは一見無音で無名な現象に見えるが、確かに存在し、絶え間なく物質に影響を与え、痕跡を残していく。私はそうした歪みとして現れる「なにか」に耳を澄ませ、素材や空間を媒介に、かたちの奥にある動きや気配を掬い上げようとしている。
アイザック・ニュートンが木から落ちるりんごを見て万有引力の法則に至った逸話は、自然の現象が人間の思考を突き動かす瞬間を象徴している。私が関心を寄せるのは、重力という言葉そのものよりも、それを「発見」と捉える感受性のあり方にある。世界の輪郭は、気づくことによって立ち上がる。
重力に抗いながら空を目指す植物の新芽。その運動は、重力を感知するアミロプラストという色素体によって導かれる。まるで人間の三半規管のように、空間の方向性を知覚し、音もなく、重力に抗う意志を示す。そうした微細な運動のなかに、私は彫刻的なエネルギーの存在を感じ取っている。
また、海岸に流れ着いた漂着物を用いた作品群では、風や波、時間といった自然の見えざる要素が、物体に刻んだ記憶の層を拾い上げて再構成している。偶然と必然のあいだで彫刻は生成し、物語を語り出す。
本展におけるもうひとつの主題「幽玄」は、東洋に根ざす「見えないものの気配を感じ取る感性」である。彫刻が視覚だけに依らず、空間の緊張や物質の沈黙、配置の呼吸といったものを通じて働きかけるとき、そこには幽玄の感覚が宿る。
私は自然の「美しさ」を示したいのではなく、私たちのうちに眠る「感知する力」を呼び覚ましたい。自然の側から語りかける声に耳を澄ませるように、見ること、聴くこと、気づくことが交差する場を立ち上げること。それが本展における彫刻の試みである。
髙橋穣
Joe Takahashi Solo Exhibition “Sense of Wonder -幽⽞-”
会期:2025年5⽉31⽇(⼟)〜 6⽉29⽇(⽇)
会場:Marco Gallery 1・3・4F
時間:13:00〜18:00(最終日は〜17:00) ※6月5日(木)〜9日(月)は20:00まで
定休:⽉・⽕曜、祝日 ※⽔曜はアポイント制/6月9日(月)はオープン
大阪市中央区南船場1-12-25
竹本ビル 1・3・4F