
中之島の国立国際美術館にて、2025年11月1日(土)から2026年2月15日(日)まで、特別展「プラカードのために」が開催される。
出品作家は、田部光子、牛島智子、志賀理江子、金川晋吾、谷澤紗和子、飯山由貴、笹岡由梨子の7名。
本展は、美術家・田部光子(1933-2024)の言葉と作品を出発点とする展覧会だ。
田部は福岡を拠点とし、前衛芸術集団「九州派」の主要メンバーとして活動していた。1961年に記した「プラカードの為に」と題した文章において、「大衆のエネルギーを受け止められるだけのプラカードを作って見ようか」と投げかけ、プラカードにより社会を変える可能性を示唆。過酷な現実や社会に対する抵抗の意思や行為、そしてそのなかに田部が見出した希望は、同年発表された作品《プラカード》に結実する。
一流労組のカンパニヤの為のプラカードは何故こうも右翼のそれと似かよっているのだろう。やはり二十代前後の莫大なエネルギーを擁しているはずなのに、こう云ふものはとても古くさい。現在すべての組織が次々に封じ込められて行く原因はこんなところにもある。おくればせながらも、大衆のエネルギーを受け止められるだけのプラカードを作って見ようか、高らかな笑いのもとに星条旗を破る為のカンパニヤが組織できないだろうか?それもたった一枚のプラカードの誕生によって― だったらすばらしい。そして人工胎盤ができたら、始めて女性は、本質的に解放されるんだけれど。(原文ママ)
― 田部光子「プラカードの為に」『九州派5』1961 年9月10日発行
今回の展覧会では、上記の文章で言及されている《プラカード》と《人工胎盤》など、田部の作品28点が展示される。
《プラカード》は5点から成るコラージュ作品で、労働争議での実体験をはじめ、三池争議や安保闘争、公民権運動、コンゴ動乱など同時代の出来事を背景に制作された。支配的な構造に抗う「大衆のエネルギー」を表す本作は、襖を支持体に、コラージュやキスマークを施すなど、 従来の美術の形式や素材へも挑戦している。
一方、《人工胎盤》(1961年作は現存せず、2004年に再制作されたもの)は、妊娠初期のつわりの経験や、女性が社会において直面するさまざまな不平等から発想された作品。フェミニズ ム・アートの先駆的作品としても評価されている。
本展では田部の作品に加え、それぞれの生活に根ざしながら、生きることと尊厳について考察してきた6名の作家の作品も展示。東日本大震災で被災し「復興」のありかたに圧倒された経験から、人間の精神とその根源に迫る作品を制作してきた志賀理江子、独自の表現手法を用いて社会や歴史のなかでかき消されてきた声を可視化する谷澤紗和子など、近年注目すべき活動を行ってきた作家たちによる、映像、インスタレーション、写真、絵画、 立体などの作品で構成される。
既存の制度や構造に問いを投げかける作家たちの作品を通じて、私たちを取り巻く社会やその歴史を見つめ直し、抵抗の方法、表現することの意味について、もう一度考えてみたい。
出品作家プロフィール
田部光子 Tabe Mitsuko
1933年日本統治下の台湾に生まれ、1946年福岡に引き揚げ、以後同地を拠点に活動。2024年没。前衛芸術集団「九州派」の発足時から主要メンバーとして参加。生活者としての実体験をもとに社会への問いやメッセージを表現に託し、2010年代まで旺盛な制作・発表を続けた。牛島智子 Ushijima Tomoko
1958年福岡県生まれ。1981年大学卒業後に上京し、Bゼミに入所。個展を重ね、変形カンバスによる絵画を発表。90年代末に福岡・八女に拠点を移してからは、生活や地域の産業・歴史に根ざした素材も用い、表現を日常の基盤として捉え、作品を制作する。志賀理江子 Shiga Lieko
1980年愛知県生まれ。2008年に宮城県の北釜へ移住。人々や風景との出会いを通して、社会と自然、死と生、何代 にも遡る記憶などをテーマに制作を続ける。2011年の東日本大震災で被災し「復興」に圧倒された経験から、人間の精神とその根源へと深く潜り、迫る作品へと展開する。金川晋吾 Kanagawa Shingo
1981年京都府生まれ。最も身近な他者と言える父親や叔母を被写体に、個としての姿を尊重し、捉えた写真を発表。
近年は複数人で生活する日々を記録した写真やセルフポートレートの発表、文筆活動、ワークショップを通じて、個人的な経験や思考を社会へ開く実践を続けている。谷澤紗和子 Tanizawa Sawako
1982年大阪府生まれ。美術制度の外に置かれてきた素材や技法を用い、想像力を解放する装置としての作品を制作する。近年はジェンダーの視点から切り紙に携わった先達の作品や足跡を追い、マジョリティ中心の社会においてかき消されてきた声に着目した作品を発表している。飯山由貴 Iiyama Yuki
1988年神奈川県生まれ。記録資料や聞き取りを糸口に、個人と社会・歴史の関係を考察し、作品を制作。社会的スティグマが作られる過程や、その経験が語り直されることによる痛みや回復に関心を寄せ、近年は多様な背景を持つ市民やアーティスト、専門家とも協働し活動している。笹岡由梨子 Sasaoka Yuriko
1988 年大阪府生まれ。絵画と映像、現実と虚構、生と死の間を探るべく、人形劇やローテクなCG合成、自作の歌、手作業による装飾を用いた映像インスタレーションを制作。作品内では様々なキャラクターを演じ、身体パーツを複数化し、固定化された枠組や見方に揺さぶりをかける。
会期:2025年11月1日(土)〜2026年2月15日(日)
会場:国立国際美術館 地下3階展示室
時間:10:00〜17:00、金曜は20:00まで(入場は閉館の 30 分前まで)
※2025年11月以降は、夜間開館は金曜日のみ休館:月曜日(ただし11月3日、11月24日、1月12日は開館)、11月4日、11月25日、1月13日、年末年始(12月28日〜1月5日)
料金:一般1,500円、大学生900円、高校生以下・18 歳未満無料(要証明)
※各種割引あり。詳細はこちら
※ 本料金で、同時開催の「コレクション2」も観覧可関連イベント
本展出品作家によるアーティスト・トーク
日時:11月1日(土)14:00〜16:00(予定)
会場:B1階講堂
定員:先着100名 ※事前申込不要谷澤紗和子とsuper-KIKIのステンシルワークショップ「ことばを身にまとう」
日時:11月22日(土)10:30〜17:00
会場:B1階講堂、B3階展示室
※要事前申込※他に、レクチャー、トーク・イベント、上映会を開催予定。詳細は決まり次第、同館Webサイトに掲載
問合:06-6447-4680(代表)
大阪市北区中之島4-2-55











