
本展は、「重力」を手がかりに、目には見えない力の存在を探る3名の作家による展覧会です。情報や言葉が過剰に流通し、何を信じるべきかが見えにくくなった現代において、重力という原初的で普遍的な力を通して、「信じること」や「見えないものとの関係」を身体的に感じ直す場を提示します。
前田信明は内省的な制作を通して精神の重力を、隅英二は日常に内在する現象や空間に作用する物理的・社会的重力を、髙橋穣は彫刻という行為を通して自然・宇宙的重力をそれぞれ表象します。三者の異なる実践が交差する空間において、鑑賞者は自らと世界のあいだに作用する見えない力を体感的に再発見するでしょう。
※本展の前田信明作品については、参考作品としてコレクション作品を出展しております。
(Marco Gallery)
1999年 東京生まれ
2018年 都立総合芸術学校美術科彫刻専攻卒業
現在 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程2年に在籍
2023年から東京と茨城県笠間市の2拠点で制作を行っている私たちは日々、輪郭を持たない力に囲まれながら生きている。
それは、重力や時間といった物理的作用から、妖怪や疫病として語られてきた不安や恐れに至るまで、形を持たないまま社会や身体に作用してきた力である。私は、こうした不可視の力がどのように物質や身体に影響を及ぼし、認識の前提を形づくってきたのかを、彫刻を通して探求している。
従来の彫刻は、地上に立つ身体の形態をトレースすることによって、人間の身体と地上の重力を不可分のものとして表象化してきた。そこでは重力は前提条件として不可視化され、彫刻はそれに従属する存在として成立していたと言える。私はその構造を継承しつつ、自らが重力を生み出し、あるいは打ち消すかのように振る舞う彫刻を通して、力が作用する過程そのものを扱い、彫刻の成立条件をあらためて問い直そうとしている。
私にとって地球は、最大の彫刻である。質量と回転エネルギーを内包し、絶えず形を変え続ける巨大な粘土のような存在だ。
地球は静止した土台ではなく、「彫刻的な運動体」として、私たちの身体や認識に絶えず影響を与えている。私は彫刻を通してその一部と接点をつくり、地球(重力)を前提に定義されてきた彫刻の存在論を、より宇宙的な視点へと拡張することを目指している。
地球の力は、植物の成長や人間の身体感覚といった身近な現象の中にも現れている。私たちは無意識のうちに重力を感知し、その方向性を前提として世界を認識しているが、同時に、説明しきれない揺らぎや不安を、妖怪や疫病といった存在として名づけてきた歴史も持っている。
私は、こうした認識の構造そのものを彫刻によって揺さぶることを試みている。重力に従属するはずの彫刻を、あたかも重力そのものを発生させる存在として立ち上げ、さらに地球の自転による遠心力との拮抗関係を浮かび上がらせることで、複数の見えない力が均衡を保ちながら作用する場を可視化する。形としては捉えきれないが、確かな歪みとして立ち現れる「なにか」を見出すことが、私の制作の核である。
隅 英二 Eiji Sumi
1970年千葉生まれ。立教大学社会学部卒業、キングモンキット工科大学大学院 Visual Communication 学科修了。
現在バンコク タイランドを拠点に活動。隅英二は、アートと科学、そして社会のあいだに広がる領域を横断しながら制作を行うマルチディシプリナリー・アーティストである。現象を探るインスタレーションを通して、光や波、重力、粒子の運動、時間といった科学的原理を、身体で知覚される体験へと変換し、自然と人工が交わる場を立ち上げてきた。
その作品は、物理現象の探究にとどまらず、遊びの感覚や物語の断片、さらには社会や歴史の中で共有されてきた思考や信念へと静かに連なっていく。照明、キネティクス、絵画、写真、デザインという多様な表現領域を背景に、テクノロジーと自然の力を重ね合わせながら、知覚の変調や認識のずれを生じさせる空間と作品を構成している。
1994年にニューヨークへ渡り、光学やマルチメディアを応用した都市空間に設置されるインスタレーションや、デザイン等多分野とのコラボレーションを通して、ホワイトキューブに収まらない芸術活動を重ねてきた。2012年に東南アジア・バンコクへ拠点を移して以降も、活動は国際的に展開されてきた。2014年にJim Thompson Art Center 主催のJim Thompson Art on Farm 出展、2017 年には香港「Sovereign Asian Art Award」においてショートリストに選出。2018年には、ノーベル博物館との協働によりシンガポールのアートサイエンス・美術館で作品を発表。中国・重慶の美術館(Essence Contemporary Art Museum/2020)、成都 Chengdu Time Art Museum(2022)、熊本市現代美術館(2021)、日本・中国・タイ・インドネシアを巡回した「ホテル・アジア・プロジェクト」(2015‒2021)など、各地で展示を重ねている。2022年にはバンコクで開催されたリクリット・ティルバーニャ、ミットジャイイン、コラクリット・アルナーノンチャイ等の著名作家を含むSawn Siwilai展で出展、リクリット・ティルバーニャが創設したGallery VER(バンコク)では2018年および2024年に個展を開催。現在、タイ・プーケットで開催中の「Thailand Biennale Phuket 2025‒2026」にて、大型パブリックアート作品を展示しており、最前線のプロジェクトとして注目されている。

前田 信明 MAEDA Nobuaki (参考作品のみ出展)
1949年、熊本県出身、同地在住
中学・高校の美術教諭を経て、九州産業大学造形短期大学部特任教授を務めた。自らが立つ大地によって、重力という垂直性、地平・水平線という世界が続いていく感覚。その広がりの空間による純粋抽象を一貫して追究。1970年の第10回東京ビエンナーレ東京都美術館「人間と物質」にて美術家・田中信太郎のアシスタントとして参加、成田克彦をはじめ、もの派や前衛作家と出会う。1975 年、サトウ画廊(東京) にてシェイプト・キャンバスの純粋抽象絵画で初個展。GALLERY SHILLA(大邱、ソウル)の所属作家として、おもにアジアを中心に多くの個展やグループ展を開催。
Group Exhibition「引かれ、揺れ、留まる」
会期:2026年2月14日(土)〜3月14日(土)
会場:Marco Gallery
時間:13:00〜18:00 ※最終日は17:00まで
定休:月・火曜、祝日 ※水曜はアポイント制
大阪市中央区南船場1-12-25
竹本ビル







