remo[NPO法人記録と表現とメディアのための組織]を母体に、2005年に大阪にて始動したAHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]が制作した書籍『わたしは思い出す──11年間の育児日記を再読して』が、2023年1月11日に刊行された。
本書は、ひとりの女性の育児日記を再読することから始まった、30万字を超える生活史だ。
仙台市の沿岸部に暮らすかおりさん(仮名)は、2010年6月11日に第1子を出産し、その日から育児日記をつけ始めた。そして、2011年3月11日に東日本大地震が発生した後も日記を書き続けた。
AHA! のメンバーは、せんだい3.11メモリアル交流館から依頼された、地震の記憶を継承するための展覧会の企画を進める中で、かおりさんと出会う。彼女の育児日記を31回にわたってともに再読し、かおりさんが語ったエピソードのうち、毎月11日のエピソードにフォーカス、“わたしは思い出す” という短いフレーズから始まる断片的な回想として本書に掲載した。
「震災」という大きな主語ではなく、ひとりの女性の「生」という視点から、11年という歳月を捉え直すことを試みている。
巻末には、日記帳、哺乳瓶、14時7分が打刻されたトイザらスのレシート、初めて子どもと観た映画の入場券など、かおりさんが所持する物品の解説を写真とともに収録。回想に登場する言葉の索引や地図も掲載され、総ページ数は832ページにのぼる。
辞書のようなユニークな外見を持つ本書のデサインは、尾中俊介(Calamari Inc.)が担当。尾中と編集担当の松本篤(AHA! )は、2017年に制作した『はな子のいる風景』(武蔵野市立吉祥寺美術館)で第52回造本装幀コンクールで東京都知事賞を受賞したコンビだ。今回も書籍の編集とデザインによる「記憶の再 – 記録化」に取り組んでいる。
AHA! による自主出版レーベルの第1弾として刊行される本書、読者カードやWebサイト、各地の読書会を通じて、かおりさんの回想をきっかけに読者自身が思い出した日付とエピソードを募集し、〈あなたの「わたしは思い出す」〉として、WebサイトやSNSで紹介していくという。出版がゴールではなく、“小さな記録と記憶”の連続がそこからまた生まれていく―AHA! ならではの取り組みがどのような波紋を広げていくのか、その行く先も興味深い。
編者/聞き手について
AHA![Archive for Human Activities / 人類の営みのためのアーカイブ]
《私》の記録と記憶に着目したアーカイブ・プロジェクト。NPO 法人記録と表現とメディアのための組織[remo]を
母体として2005 年に大阪にて始動した。これまでに、記録集『はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』(武蔵野市立吉祥寺美術館、2017)、ウェブサイト『世田谷クロニクル 1936-83』(生活工房、2019)などの企画・編集を担当。
2023 年からは、出版レーベルとしての活動も開始。本書『わたしは思い出す』は、その第1弾。「小さな記録の誕生日を祝おう」がプロジェクトの行動指針。発行元について
remo[NPO 法人記録と表現とメディアのための組織]
メディアを通じて「知る」「表現する」「話し合う」といった3つの視点で活動する非営利組織。2002 年に大阪で設立。
メディア・アートなどの表現活動を促すほか、「文房具としての映像」という考え方の普及、映像を囲む新しい場づくりなどを行う。例えば、6 つのルールに則って撮影された映像を鑑賞しながら話し合う映像の句会「remoscope」、はじめて出会った人たちが脚本から鑑賞までの映画づくりを3時間で行う「ご近所映画クラブ」、みずからの声をみずから伝えるメディアづくりを海外の事例から学ぶ「Alternative Media Gathering」などの活動がある。
『わたしは思い出す I remember──11年間の育児日記を再読して』
発行:2023年1月11日
仕様:W110×H160 / 並製 / 832頁
企画:AHA![Archive for Human Activities / 人類の営みのためのアーカイブ]
取材・編集・執筆・構成:松本篤(AHA!)
デザイン:尾中俊介(Calamari Inc.)
編集:阿部恭子、奈良歩、水野雄太(AHA!)
撮影:水野雄太、松本篤
協力:仙台市、せんだい 3.11 メモリアル交流館(公益財団法人仙台市市民文化事業団)、デザイン・クリエイティブセンター神戸[KIITO]価格:3,500円(税込) ※購入ページはこちら
発行元:remo[NPO 法人記録と表現とメディアのための組織]
※本書は、せんだい3.11メモリアル交流館、および、デザイン・クリエイティブセンター神戸にて開催された展覧会『わたしは思い出す』の内容に、新たな要素を加えて再構成したもの