
大阪を拠点にアパレルブランド「NO CONTROL AIR」や「FIRMUM」などを展開するneuthingsが、ブランド「DDUD(ディーディーユーディー)」の直営店である「DUDD(ダッド)」を、2025年3月に桜川にオープンした。
ブランド「DDUD」は、neuthingsが2024年に立ち上げた実験的レーベル。名称は「The delivery date is undecided.(納期未定)」というコンセプト文から頭文字を取ったもので、服づくりにおいて常識的に「避けるべき」とされるシワや色ブレ、製造ロットごとに生じる微細な形状の差異、納期を定めないこと——といった“不安定さ”をむしろ肯定し、受け入れるところを出発点としている。その姿勢には、今の時代に寄り添う、つくり手としての誠実さや正直さがにじむ。
直営店の「DUDD」は、この思想を空間として立ち上げた場所だ。店名は「DDUD」の綴りを間違えたことに由来するというが、語感や認識のずれをも含み込み、ブランドのあり方や世界観を自然体として映し出しているように感じられる。

新なにわ筋と千日前通りの交差点に建つ新桜川ビルの205号室。隣の204号室は、秋山卓史氏が営む食堂「SAN」だ。ここへの出店の決め手は、かねて親交のある秋山氏の誘いだったという。
店内に足を踏み入れると、ずらりと並んだ大量の服がまず目に飛び込んでくる。右手にはDDUDをメインとしたモノトーンの服、奥には青や緑など彩度の高い服がある。後者はneuthingsがDDUDをはじめる以前、NO CONTROL AIRやFIRMUMで試験的に制作し、アーカイブとして保管していたものだそう。製品染めによるシワや風合いのばらつきがそのまま残された、いわばプロローグの服たちだ。

DDUDの服は、ミニマルでシワ感のある佇まいが特徴だ。ぱっと見ればNO CONTROL AIRやFIRMUMの延長線上にあるようにも思えるが、独特の空気をまとっている。そもそもなぜこんなにシワシワなんだろう? そんな素朴な疑問も湧いた。この日は偶然、neuthings代表の米永至氏が店頭に立っており(事務所が近く、しばしば様子を見に来ているのだそう)、その理由を尋ねると、こう返ってきた。
「このシワは、高温高圧製品染めという手法を用いることで生じるものなんです。圧力釜を想像してもらうと、工程がわかりやすいかな。圧力釜って、釜を密閉して中の圧力と温度を上げることで、具材に味がしっかりと沁み込むじゃないですか。そんな感じで、高温で圧力をかけて生地に色を入れ込むというやり方なんですね。ただ、この方法だと、どうしてもシワができてしまう。でも、そのシワはそれ以上、増えることも伸びることもない。そこが面白いと思うんです」
高温高圧製品染めを施した生地は、部位によってシワの度合いが異なる。その揺らぎは、服を形にしていくなかで絶妙な個体差を生み、さらにユニークな存在感となって現れる。同じロットで製造された服でも、佇まいの一つひとつ異なるものが仕上がるのだ。
「よかったらいろいろ試してみてくださいね」と言われ、さっそく袖を通す。印象的だったのは、ライダースジャケット。

neuthingsがこれまで扱ってきたブランドにはない、独自のシルエットだ。肩や身頃にゆとりをもたせており、ライダースならではの鋭く重い“いかつさ”が和らげられている。甘く平織りされたスパンポリエステルに、製品染めを施した総裏仕立ての生地は、軽やかで柔かく、着ると自然に体の輪郭に沿う。
また、ライダースと同じ生地でつくられたブルゾンは、より丸みを帯びたアウトラインだ。スタッフが「なんかあたたかいんですよね」と微笑んですすめてくれ、こちらも羽織ってみる。すると、空気を含んだように軽く、内側に体温がふんわりととどまるような感触があった。

素材もつくりも、既存のルールには収まらない。それでも、身に纏えばすっと腑に落ちる。不安定さが成す美しさやありようを、言葉でも着心地でもちゃんと納得させてくれる。
こうした服をつくる米永氏の視座は、実は店内の空間にも覗くことができる。たとえば、ヴィンテージの棚の引き出しを開けると、中には主にクォーツショック以降のSEIKOを中心に、ポストモダン系の時計が整然と並んでいる。また、試着室横の鏡の裏には、さまざまな形状のミニチュアの瓶がぽつりぽつりと佇む。

これらの古物は、単なるディスプレイではない。米永氏が「時間の蓄積」や「風合いの変化」といった、服づくりで大切にしている価値観と呼応する存在だ。新しいものと古いもの、均質なものと揺らぎのあるもの。その共存こそが、時間感覚や温度感の曖昧さ、また想定外の面白みに気づく余地を生み、DUDDの思想が漂う空間を形づくっているのだ。
ブランドの立ち上げ以来、新作展示受注会として全国を巡る「TRANSIT SHOW」を開催し、自ら車で服を運び、接客まで行う米永氏。この頃も、愛媛から戻ったばかりだったとのこと。「出張が増えて、古物を仕入れる時間が全然ないんですよ」と笑う姿には、時間を惜しまず人と服との関係を築こうとする姿勢が感じられた。
“納期未定”という哲学は、時代に対するささやかな抵抗であり、効率や安定、即応性といった、正しさとは異なるリズムの実践だ。それを豊かさや楽しさとして受けとめる感覚を、私たちは忘れかけているのかもしれない。ふらりと立ち寄るたびに、わくわくする気持ちを思い出させてくれる。棚の表情は訪れるたびに変わり、思いがけない一着との出会いが待っている。DUDDはそんな場所だ。

DUDD / ダッド
営業日:不定
※随時Instagramで告知
営業時間:12:00〜19:00
Instagram:dudd.jp
問合:090-7058-0928
DUDD / ダッド
大阪市浪速区桜川3-2-1
新桜川ビル205