大阪のクリエイティブユニット「graf(グラフ)」が展開する中之島のカフェ「graf kitchen(以下、kitchen)」が、2022年1月28日(金)にリニューアルオープンした。「暮らしのための構造」をキーワードに、衣食住にまつわるデザインと豊かさを探求しているgraf。今回のリニューアルでは、店舗を「食」を通じた新たな体験の場としてとらえ、調理スペースはオープンキッチンに、フードやスイーツのメニューも一新した。設計デザインは自社で行い、素材感を残して自分たちで仕上げたという左官も、空間のライブ感をより引き立てている。
店長・シェフの中野隼氏は「コロナ禍をきっかけに、お店のあり方を改めて考えました。SNSなどから情報は簡単に得ることができますが、体験を通した情報を得ることができるのはお店ならではの強み。五感を使って空間の雰囲気や食を楽しんでもらえる場を目指します」と話す。
オープンキッチンからは、野菜を刻む音、お菓子の焼ける香りがダイレクトに感じられる。盛り付けている様子もうかがうことができ、料理が運ばれるのを待つ時間も楽しい。
これまでkitchenでは、つながりのある生産者から仕入れた市場に出回ることの少ない素材を使ったり、世界各国の食文化からヒントを得たメニューを展開してきた。リニューアルにあたっては、それらに加え、フードダイバーシティに取り組んだ新しいメニュー開発に力を注いだという。
「食は国や地域、宗教的な習慣、そしてアレルギーなどの身体的な要素も含め、嗜好も制限もさまざまです。そんな食文化の多様性を楽しんでいただきたいと、動物性食材を使わない、環境に配慮したヴィーガンヌードルや、米粉を使用したグルテンフリーのクレープなどを新たに考えました」と中野氏。
今回新たに登場したメニューはもちろん、kitchenが提供する料理には、食にまつわるカルチャーがふんだんに盛り込まれている。生産者の顔が見える食材、作家が手がけた器や島根から仕入れた民藝品の皿、各国の伝統的な調理法やスパイスの組み合わせ。一人ひとり、食に対する価値観や興味は異なるが、grafで提供される料理には思わず惹きつけられるフックが散りばめられている。
中野氏は「ここを訪れたお客さんの心を動かすような食の体験を提供することが目標です。kitchenで出会った新しい刺激や発見が、クリエイティブな食へのアプローチを生み出すきっかけとなれば嬉しいです。そのために僕たちは日々研究を重ね、アップデートをし続けることが大切だと考えています」と話す。
昨今の健康ブームや、SDGsなど環境面に配慮した取り組みは各所で行われているが、kitchenが展開する「食」は目的を特化せず、人々を多様な体験へとつなげていく。今後は、素材や調理法を伝える勉強会や媒体の作成、生産者を招いた食事会などの企画を展開予定だ。これらの活動の根本には、これからの食文化を見据える姿勢が垣間見える。
中野氏は語る。「僕らのまわりには、信頼できる生産者がたくさんいます。料理人がそのおいしさをきちんと伝えることが、いい生産者を応援することにつながり、そしていいものを安定して生産できる社会を築いていく。これが僕らの考えるサスティナブルな食のあり方ですね」
1998年より活動をスタートしたgraf。2010年にはじめた畑づくりをきっかけに生産者との輪を広げ、そのコミュニティは次第に拡大し、FANTASTIC MARKETをはじめとした食のプロジェクトを協働で行うまでに発展している。そんななかで、kitchenが担う役割は、クリエイティブな食のあり方を追求し、訪れたお客さんにおいしさや楽しさを伝えながら、食への視野を広げていくことなのかもしれない。ぜひ気になる食材や調理法などをスタッフに訪ねてみてはいかがだろうか。
中野氏をはじめ、スタッフの日々のリサーチやアイデアが、新しい食の提案へと結びつくkitchen。常に更新されていく店の展開がこれからも楽しみだ。
営業時間:11:30〜18:00
定休日:月曜・第2火曜
問合:06-6459-2100
大阪市北区中之島4-1-9
graf studio