
美術家の⻄尾美也と、手芸を媒介にした創造の場・kioku手芸館「たんす」に通う地域の高齢女性との2018年から続く共同制作を、ファッションブランドとして社会に実装するアートプロジェクト「NISHINARI YOSHIO」。⻄尾と女性たちとの予期せぬズレをコンセプトの一つに、作業着=日常を生きるための服を提案し、誰もが服づくりに携わる場を地域の中に定着させていくことを目指し、活動を続けている。
2025年10月5日(日)には、「NISHINARI YOSHIO」としては初の試みとなるファッションショーを開催。地域の集会所を会場に、「たんす」の参加者である高齢者や海外からの移住者、留学生がモデルとして出演。これまでに生み出された洋服や、ワー クショップなどで制作したアイテムも取り入れながら、「アート×福祉による誰もが孤立しない共生社会の実現」をファッションショーという形で表現する。
これまでの経緯から今後の展望
「NISHINARI YOSHIO」は、大阪市の文化事業として実施していた地域密着型アートプロジェクトの一環として2012年に開館した創造活動拠点・kioku手芸館「たんす」でのプロジェクトに、美術家・⻄尾美也を招聘したことがきっかけとなり生まれました。「たんす」では、美術家と地域住民が出会い、相互に影響を与え合いながら共にものづくりに取り組む場として、地域のなかに定着してきました。活動を続けるなかで、「たんす」の担い手へと変化を遂げつつあるコアメンバー(地域の高齢女性)と⻄尾による継続的・長期的なプロジェクトを想定し、「衣服」や「装い」に対する固定概念を崩すためのワークショップ実施。2年間の準備期間を経て2018年に共同制作によるファッションブランドを立ち上げました。「NISHINARI YOSHIO」の商品は「身近な人への思いやり」や「自分の人生を表す最後の3着」といった美術家からメンバーに出されるお題からデザインされ、不要になった生地を活用し1点ごとに布違いで制作していることも特徴です。ブランドの発足から8年が経ち、今や共同運営者となった地域の女性たちは、拠点である「たんす」に週2日通うほか、日々自宅での制作を継続しています。服づくりを通じて、本人自身も想像を超える表現への探究心を日々高めています。車椅子生活になっても「たんす」に通うことを励みに制作を続ける方もおり、人は年齢に関わらず「創造」への欲求を失うことなく、どこまでも輝くことができる姿を目の当たりにしています。今後は、福祉制度からもれる、もしくは既存の福祉制度ではカバーしきれていない地域住民の社会的孤立に焦点をあて、医療や福祉など他領域の支援者とともに、「NISHINARI YOSHIO」の創作活動を施設や各家庭に届けるアウトリーチの活動として、アートを媒介とした新たな交流をめざしています。地域に暮らす多様な人々の創造性を触発し、制度と制度のはざまから抜け落ちる人々をエンパワーメントできるような事業へと発展させていきたいと考えています。
外国人住民との新たな試み
2023年からは、地域に急速に増えつつある外国人住民との服づくりにも着手し、新たな展開を試みています。かつて日雇労働者の街として全国各地から労働者が集まり、その中で繁栄してきた同地域の商店街は、労働者の高齢化、不況による失業など時代の変遷のなかでシャッター街と化していましたが、ここ10年ほどで中国系・東南アジア系のカラオケ居酒屋や飲食店等が大量に入居しています。技能実習生や留学生として来日する外国人も多く、繁華街にも近い利便性から仕事へのアクセスの良さや比較的家賃相場が低い住宅事情から⻄成区の居住者は増加傾向にあり、現在では外国人比率が15%になろうとしています。ただ、同じ地域に生活する住民にも関わらず、旧住民とのつながりはなくその生活実態や背景を知る機会はほとんどありません。そのような中で、彼/彼女らとの接点として「ファッション」はひとつの可能性があると考え、「NISHINARI YOSHIO」の服づくりワークショップを重ねることで、将来的にはブランドの共同制作者として活動を共にしていくことをめざしています。当初より⻄尾と地域の高齢女性との間で起こっていたズレがコンセプトとなっているブランドにおいて、在日外国人との文化や生活習慣の違いが地域の中ではネガティブな印象として語られがちですが、そのズレこそ重要なポイントであり、活動を通じて地域住民との間に起こるズレをきっかけにブランドの新たな展開に着手したいと考えています。(プレスリリースより)
NISHINARI YOSHIO
美術家の西尾美也と大阪市西成区山王にあるkioku手芸館「たんす」 に集まる地域の女性たちとの共同制作により2018年に立ち上げた西成発のファッションブランド。NISHINARI YOSHIOの商品は、「身近な人を想定し、その人への思いやり」や「自分の人生を表す最後に着たい3着」をデザインするといった西尾からメンバーに出されるお題から生まれたもの。「たんす」に集まる不要になった生地を活用し、1点ごとに布違いで制作していることも特徴のひとつである。既存の日常の行為としての「装い」に介入していくことで、社会に新しいコミュニケーションを生み出すこと、誰もが服づくりに携わる場を地域の中に定着させていくことをめざしている。また、大量に生産・消費される既存のファッションへの批判的態度としての表現活動でもあり、アートとファッションの領域を横断しながら新たな表現手法を開拓し、社会に広く発信していくための実験でもある。
これまでの活動に、阪急メンズ大阪(2018)、あべのハルカス(2019,2024)、西武池袋本店(2022,2023)、仙台フォーラス(2022)などの商業施設での展示販売のほか、グループ展「Study:大阪関西国際芸術祭」(2022,2023,2025/大阪)、「だれもが文化でつながるサマーセッション2023」(2023/東京)、個展「最後のファッション」(2022/仙台)、「最後のオプション」(2023/大阪)、「あらわすいとなみ vol.1 kioku手芸館 たんす」(2024/佐賀)などがある。西尾美也(にしおよしなり)
1982年奈良県生まれ。美術家。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で展開。近年は「学び合いとしてのアート」をテーマに、様々なアートプロジェクトやキュレトリアルワークを通して、アートが社会に果たす役割について実践的に探究している。主著に『装いは内破する』(左右社)、『美術は教育』(現代企画室)がある。
NISHINARI YOSHIO:いのち輝く未来社会のファッションショー
日時:2025年10月5日(日) 13:30〜14:00/15:30〜16:00
会場:山王集会所
料金:入場無料
座席定員:各回 45名
※座席での観覧を希望する場合は、開催日前日までに応募フォームより要申込。立ち見は申込不要プロデューサー:⻄尾美也
演出・構成:おかだゆみ
作曲・サウンドデザイン:Kani Ningen
音響スタッフ:菊池航|舞台監督:小林夢祈
ヘアメイク:田城尚美
制作:松尾真由子、長谷川亮徳、田城照兜、堤悠、川本早花、高岩みのり
記録:片山達貴、金サジ、小川美陽
グラフィックデザイン:堤拓也主催:東京藝術大学⻄尾美也研究室
共催:一般社団法人 brk collective
助成:東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト/共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点
協力:大阪関⻄国際芸術祭実行委員会/NPO 法人日越支援会/社会福祉法人山王みどり会/愛の家 小規模多機能型居宅介護 大阪松/山王訪問看護ステーション/NPO 法人釜ヶ崎支援機構/山王連合振興町会
山王集会所
大阪市西成区山王2-10-24