名画の⼈物や歴史的⼈物などに扮するセルフポートレート作品で知られる美術家の森村泰昌と、⼈形浄瑠璃⽂楽の⼈形遣いとして幅広い役を演じ、昨年人間国宝となった桐⽵勘⼗郎。大阪で生まれ育ち、現在は国内外で活躍するふたりが新作公演『新・鏡影綺譚』で舞台をともにする。なんと森村が人形に扮し、勘⼗郎に「遣われる」という前代未聞の人間浄瑠璃公演であるという。
ふたりの出会いは2020年4月。森村が、モリムラ@ミュージアムでのトークショーを勘⼗郎に依頼したことがきっかけだった。その場で森村がこのアイデアを思いつき、それを勘⼗郎が面白がったことで「⼈間浄瑠璃プロジェクト」ははじまることになる。
人間が人形にただ扮するのでは面白くないと、森村は床本にもこだわる。1987年に、勘⼗郎の父・⼆世桐⽵勘⼗郎の追善公演が行われたが、これが『鏡影綺譚』といって、オペラの『ホフマン物語』から着想されたものであったという。勘⼗郎の姉・三林京⼦が人間役として登場し、鏡を多用した幻想的な劇世界が繰り広げられたことを勘十郎から聞いた森村は「これだ」と閃いた。『ホフマン物語』はE. T. A. ホフマンの3つの物語から構成されている。森村は若き日に愛読したホフマンの作品世界と人間浄瑠璃との出会いにもまた運命的なものを感じ、一気呵成に床本を書き上げた。
完成した床本『新・鏡影綺譚』には、「ラビリンス」や「スペクタクル」など、文楽の言葉としては新鮮な響きをもつ言葉が入り、「コッペパン」というユニークな名前の人形も登場する。これは『ホフマン物語』の3作品のひとつ、「砂男」に登場する「コッペリウス」をもじったという、森村のユーモア精神が感じられる。悪鬼も登場し、変化物を得意とする勘十郎の真骨頂も見られそうだ。
本プロジェクトが開始してから勘十郎をずっと悩ませているのが、人間をどう遣うか、ということの具体的な技術である。手は勘十郎が森村の身体に合わせて制作したが、かしら(首)はどう動かすか。かしらは手と連動することで感情の機微を豊かに表現するが、どのように動くかを勘十郎から森村にどう「伝達する」かがずっと抱えている難問であるという。また森村は、文楽劇場で人形の動きを見ていると、胴の動きも重要であると感じていると話す。勘十郎は「全部からっぽにしてきてください」と森村を激励する。
勘十郎はこれまでも多くの異分野とのコラボレーションを行ってきた。それらと異なる特徴として、森村は自らの文楽を「野性の文楽」と評する。生玉神社や近松門左衛門の墓の近くで、地霊を感じながら暮らす森村が、大阪の地霊と、人間が人形を演じる世界を中之島にどう立ち上がらせるのか。
本公演は2022年2⽉に⼤阪・中之島に新しく誕⽣する⼤阪中之島美術館の開館記念公演として、同年2⽉26⽇(土)、27⽇(日)に上演される。モリムラ@ミュージアムで開催中の展覧会「人間浄瑠璃 二人展 お手を拝借‼」も予習してからぜひ訪れたい。
⽇程:2022年2⽉26⽇(⼟)14:00/19:00、27⽇(⽇)11:00/16:00
※計4回公演料⾦:⼀般販売 10,000円 *1月16日発売分は完売、1月23日(日)10:00~追加販売
購⼊⽅法:オンラインチケットシステム「Peatix」より購⼊(クレジット/コンビニ決済)
※予定枚数が完売次第、販売を終了床本・出演:森村泰昌
作曲:鶴澤清介
太夫:⽵本織太夫
三味線:鶴澤清介、鶴澤清公、鶴澤清允
⼈形:桐⽵勘⼗郎(⼈間国宝)
吉⽥勘彌、吉⽥簑⼀郎、吉⽥⼀輔、吉⽥簑紫郎、桐⽵紋吉、吉⽥簑太郎、桐⽵勘次郎、桐⽵勘介、吉⽥⽟延、吉⽥簑悠、桐⽵勘昇、豊松清之助
囃⼦:望⽉太明藏社中【関連企画】オンライントーク
人間浄瑠璃『新・鏡影綺譚』記念企画
「森村×勘十郎+森村×正剛 対談」
第1部は、森村が扮する人形を勘十郎が遣う前代未聞の人間浄瑠璃。美術と文楽があやなす創作劇の源について、2人が熱く語る。
第2部では、 芸能の神様として知られる蝉丸、 文楽の生みの親である近松門左衛門、 近世から脈打つ創造の醍醐味について、 知の巨人・編集工学者の松岡正剛と、 森村が熱く語る。
日時:2022年2月4日(金)19:00〜22:00
出演:森村泰昌(美術家)、桐竹勘十郎(人形浄瑠璃文楽人形遣い)、松岡正剛(編集工学者、編集工学研究所所長、角川武蔵野ミュージアム館長)
進行:木ノ下智恵子(大阪大学21世紀懐徳堂、人間浄瑠璃プロジェクトプロデューサー)
料金:2,000円
チケット: https://nj-talk220204.peatix.com
※第1部は1月12日に開催した森村泰昌・桐竹勘十郎の対談の再配信。
※チケット購入者は、2月18日(金)までアーカイブ視聴可能。
⼤阪中之島美術館
⼤阪市北区中之島4-3-1