
木偶の坊を自称する彼の表現は、本人の虚無だけを実現する。
誰にも媚びない故に、無類の強さなのである。
描きたいものを描くという一点において、これほど自由な人はいない。
100%ピュアな諦念で描くという動機は清々しくさえある。
わたしが本展のビジュアルに表題作の絵を選んだところ木澤氏はこう云った。
「“人間うまく描けない”ですね!うまく描けた絵なので良かったです。」
そのことにツッコミを入れた時の返事はこうだ。
「うまく描けないことがうまく描けた気がします。」
それでこの人は終始、世の中の矛盾をエサに生きていると確信した。
人に対してエサというのは失礼に当たるかもしれないが、
この人が生きている様子や描いているものを見ていると、
淡々とエサをついばむ雀や鯉を見ているようなのだ。
何も考えず次々エサを口の中に放り込む姿は生き物として完成されている。
そこには一切の葛藤や打算は感じられない。
本能と付随する動きだけが生活を進めてゆくのだ。
木澤洋一はまさにそのように絵を描いている。
われわれはその絵の不条理をにんまりと眺めて、
まるで公園の池のようなフラットな面持ちで、
その風変わりな日常を愛でて呼吸をするのだ。(gallery yolcha 車掌 イルボン)
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木澤 洋一 KIZAWA Youicihi
何年も前から、ボールペンとアクリル絵の具でずっと同じようなテンションでほとんど同じような雰囲気の絵を描いています。ボールペンの絵は布団の上で、アクリル絵の具は部屋の一角で描いています。描いた絵を年に数回展示しています。いつもかっこいい絵が描きたいと思っていて、当初は不毛さや退屈さ、そういうものがかっこいいと思って絵を描いていたつもりだったのですが、現在ではただただ自分自身が不毛で退屈な人間になっており、ただ描ける絵を描いている状態です。

木澤洋一 傑作展「人間うまく描けない」
会期:2025年6月14日(土)〜7月6日(日)
時間:13:00~19:00(日曜のみ12:00~19:00)
休廊:⽕〜⽊曜、6月29日(日)
料金: yolcha運賃制(300円でチケットを購入/同金額分カフェ利用可)
大阪市北区豊崎1-1-14