
大阪を拠点に活動しているアートハブ・TRA-TRAVELが、国内外のアートオーガナイゼーションが実施したワークショップなどを、開催地の土地柄に合わせてリメイクし実施するプロジェクト「TRA-PLAY」をスタートする。
2025年夏に連続して開催するTRA-PLAY vol.1〜3 には、ハノイのアートハブ「AiRViNe」、広州のアーティストコレクティブ「刺紙」、香港のアーティストコレクティブ「c.95d8」が参加。それぞれの地域で培われてきたアートプロジェクトを大阪版として翻案し、3日に分けてワークショップおよびトークイベントを開催する。
各団体が、その土地の制度・文化・風習・社会状況の中から生み出した実践を大阪で共有し、共に実践することで、同時代の声に耳を傾けると同時に、自らの文化や社会、そして制度について考える機会をつくる。
第1弾となるTRA-PLAY vol.1は、2025年8月16日(土)に山王のイチノジュウニのヨンにて開催される。
本ワークショップは、ハノイのアートハブ AiRViNe(Artist-in-Residence Vietnam Network)によるシリーズ「Nature on the Roof」をリメイクしたものです。
Nature on the Roofは、ハノイの放置された屋上住宅にアーティストを招き、その空間や近隣住民との対話を通じて制作された本イベントは、レジャーをゲリラ的な実践として再構築する試みでした。
その発想の源となったのは、ベトナムの「trà đá vỉa hè(歩道のアイスティー)」の文化です。それは茶道のような格式張った儀礼に対して、より気軽で共同的なカウンターカルチャーとして生まれました。伝統儀礼がエリート主義であるのに対し、trà đá はお茶を飲む行為を、身近で柔軟かつ共有可能な文化へと変えるものです。輸入された習慣をベトナム現地の状況に合わせて変容させるベトナム人の姿勢――規則を緩め、完璧さを手放し、そこにある可能性を受け入れる――が映し出されています。
大阪では、その精神を翻案し「ベトナム・アフタヌーンティー」を開催します。またイベント内では、「In-Betweenness(間にあること)」と題した公開ディスカッションを行われ、ベトナムのアーティストやアート団体が、その必要性や文脈に応じ――アーティスト、オーガナイザー、キュレーター、そしてインスティテューション――と自在に役割を行き来する在り方を考察します。
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AiRViNe/エアバイン
AiRViNe(アーティスト・イン・レジデンス・ベトナム・ネットワーク)は、グエン・トゥ・ハンとチャン・タオ・ミエンによって設立。
文化交流やキャリア支援、地域社会との関わり、そして持続可能なアートインフラの育成を目的に、アーティスト・イン・レジデンスを通じてベトナム現代美術シーンの発展の支援をおこなう。2024年以降、AiRViNeは On the Move(OTM) および Green Art Lab Alliance(GALA) の正式メンバーとなり、さらに 台湾アートスペースアライアンス(TASA)、台湾アジア交流基金会、黄金町エリアマネジメントセンター との提携を通じて、ベトナムと国際的なアーティスト・イン・レジデンスをつなぐ重要なハブとしての役割を担う活動を行う。また、ワークショップやトーク、メンタリングを通じ、ベトナムのアーティストが国際的なレジデンスの機会を見つけ繋げる橋渡しとして積極的に支援活動を行う。
TRA-TRAVELのQenji Yoshidaによる、AiRViNeのメンバー・Nguyễn Tú Hằngへのインタビュー
Qenji Yoshida(以下QY):大阪でお会いできるのを楽しみにしています。
今回はデザイン・コレクティブ「Collective Sonson」として瀬戸内国際芸術祭に参加されるため来日されるとのことですが、お話を伺うのをとても楽しみにしています。
グエンさんは「Collective Sonson」だけでなく、ベトナムでさまざまなアート組織に関わり、運営にも携わっていらっしゃいますね?Nguyễn Tú Hằng(以下NTH):ご招待ありがとうございます。私もとても楽しみにしています。
そうですね。「Collective Sonson」以外でも、現在は、アーティストのTran Thao Mienと共に「Artist-in-Residence Vietnam Network(AiRViNe)」を共同設立し、文化的モビリティを推進し、国際交流を通じてベトナムのアーティストを支援するプロジェクトを展開しています。
最近では、ベトナムとタイの協働による「White Light Cinéhub」を共同設立し、ハノイにインディペンデント映画と映画愛好家のための新しいスペースをつくる準備を進めています。加えて、「Hanoi Grapevine」ではディレクターも務めています。これらのプロジェクトはそれぞれが互いに影響を与え合い、私のさまざまな実践の基盤となっています。

QY:本当にいろんな活動をされているんですね!どのプロジェクトについてもイベント当日に紹介いただけるのを楽しみにしています。
今回大阪で実施するワークショップについても簡単に教えていただけますか?NTH:このワークショップは、ベトナムの “trà đá vỉa hè”(歩道のアイスティー屋台)から着想を得ています。気軽でありながら、日常生活のリズムに深く根ざしている文化です。ハノイには「その地域を知りたければ、お茶屋のおばさんに話を聞け」という言葉があるほどなんですよ(笑)。
こうした屋台は、人々が集まり、噂話をしたり、新聞を読んだり(今ではスマホをスクロールしたり)、あるいはただ静かに座って過ごしたりする場所です。見知らぬ人とご近所さん、個人的な思考と公共の交流との境界が曖昧になる空間でもあります。QY:たしかに日本の都市のリズム感とはかなり違いますね。
NTH: 私たちのワークショップは、この文化をワークショップの形に「翻訳」して実践するものです。具体的には、みんなで座ってゆっくりお茶を飲み、気軽に交流できる「お茶会」を設けます。
私にとってこれは、「公共」と「私的」という問いに直結しています。私はベトナムで育ち、当時は一つの家を2〜3家族で共有するのが普通で、「プライバシー」という概念はあまりありませんでした。たとえ自分の部屋があっても、それは暗黙のうちに共有空間と見なされていたのです。
実は私、日本に留学していたことがあるのですが、日本では個人のプライバシーや境界をとても重視する文化ですよね。最初は孤立感を覚えましたが、やがてその静けさをありがたく感じるようになりました。アートに携わる中で、私はますます「公と私のあいだ」に惹かれるようになっています。今回のイベントでも、大阪でそうした気軽でゆっくりとした出会いの場を再現したいと考えています。

QY:ありがとうございます。楽しみですね! 最後に何かコメントありますか?
NTH:私は、もっと多くのベトナムのアーティストが日本を訪れてほしいと願っています。ただ展覧会に参加するというだけでなく、長期的なレジデンス、リサーチコラボレーション、学び合いといった、より深い交流の形でです。同時に、日本のアーティストやキュレーター、リサーチャー、コーディネーターをベトナムに招きたいとも思っています。私たちが日本の制度から学べることは非常に多いのですが、同時に私たちのシーンもまた、新鮮な視点や物語、そして共鳴しうる在り方を提供できると信じています。
TRA-PLAY vol.1 with AiRViNe
「ベトナム・アフタヌーンティー: In-Betweenness」日時:2025年8月16日(土)16:00〜19:00 ※入出場自由
会場:イチノジュウニのヨン
参加費:無料(1ドリンク制)
定員:なし(お茶の提供は数に限りあり)
主催:TRA-TRAVEL
共催:AiRViNe
協力:C-index
助成:大阪市、芳泉文化財団
大阪市西成区山王町1-12-4