
大阪を拠点に活動しているアートハブ・TRA-TRAVELが、国内外のアートオーガナイゼーションが実施したワークショップなどを、開催地の土地柄に合わせてリメイクし実施するプロジェクト「TRA-PLAY」をスタートした。
ハノイのアートハブ「AiRViNe」によるvol.1、広州のアーティスト・コレクティブ「刺紙」によるvol.2に続き、2025年8月23日(土)に開催するvol.3には、香港を拠点に活動するアーティスト・コレクティブ「c.95d8」を招聘し、パフォーマンス・ワークショップを体験・実践する。
c.95d8は障害をもつ人々の経験を基盤とし、障害を創造的な資源かつ、熟考に値する主題として、パフォーマンスやワークショップを実施してきました。また、c.95d8が運営する「Crip Art Residency」では、障害のあるアーティストの受け入れを行ってきました。「Crip※」という言葉に込められているのは、障害者としての誇りや文化を積極的に受け入れる姿勢です。
大阪で実施する本イベントでは、c.95d8のこれまでの活動から育まれた「身体の差異と人々のあいだに流れる時間との関係」を探り、また「自分自身、他者、そしてそれらの関わりを形づくるもの」との、繊細な相互作用を探るワークショップでありパフォーマンスでもあります。
※ Crip:かつて差別的に使われた「cripple」に由来する言葉を、あえて使い直しポジティブに転換し使用している
c.95d8 プロフィール
2022年に設立された香港のアート&コリビングスペース/コレクティブ。c.95d8は「クリップ(Crip)」をめぐる課題に焦点を当て、文化イベントやアーティスト・イン・レジデンスを企画・運営しています。「Crip(クリップ)」とは、英語の「cripple(身体障害者)」を当事者が再定義し、肯定的に用いる言葉です。障害を弱点ではなく新たな価値や視点の源泉とみなし、障害者運動のスラング的な自称として用いています。
またc.95d8が運営する「Crip Art Residency」では、障害のある人々の生活経験を基盤としたプログラム運営を行っています。
TRA-TRAVELのQenji Yoshidaによる、c.95d8のメンバー・Bom Lamへのインタビュー
Qenji Yoshisda(以下QY):こんにちは。以前お会いしたときに、あなたのアートスペース/レジデンスでは、障害を創造的・芸術的な表現へと転換するプロジェクトをされていると伺ったのを覚えています。改めて、そうした取り組みを始めることになったきっかけを教えていただけますか?
Bom Lam(以下BY):過去にSiu Fong(c.95d8のメンバー)が就職活動をしていたとき、障害を理由に差別を受け、その場で面接を拒否された経験がありました。私たちはそんな不公平さに直面して、強い失望と無力感を覚えたんです。そこで、自分たちが得意とする「アート」という言語を通じて公平さを表現することを選び、そこからCrip Art Residencyが生まれました。最近も、Siu Fongはオンラインで差別を受けることがありました。こうした経験は過去も現在も、私たちに「誰しもがある意味でCripである」ということを思い出させてくれます。だからこそ、私たちは皆と一緒に学び続け、成長していく必要があると考えています。
QY:今回のイベントが学びのきっかけになることを、とても楽しみにしています。
前回お会いしたときに、日本でも同じような取り組み――つまり、障害のあるアーティストのためのアーティスト・イン・レジデンスがあるのか――を質問されましたよね。あのときはすぐに思い浮かばなかったのですが、「福祉」という枠組みの中で、日本でも障害のある人たちがアートを通して自己表現し、その活動を社会的に広げている例はいくつかある、とお話ししました。その後、実際にいくつか訪れていただいたと思うのですが、いかがでしたか?BY: 私たちは京都の「暮らしランプ」と滋賀の「やまなみ工房」を訪問したんですが、どちらも本当に刺激になりました。
暮らしランプは、子どもから大人まで特別なニーズを持つ人をサポートしています。京都市内に複数の拠点があって、それぞれ目的に合わせて運営されているんです。たとえば、特別なニーズを持つ人がバリスタとして働くカフェを運営していて、その裏のアトリエを一緒に使っているんです。障害とアートをつなげながら、複数の機能を包括的かつ創造的に組み合わせているのが印象的でした。
やまなみ工房は、大人向けのデイケアとアトリエを提供するスタジオです。プロ仕様の画材を揃えているのですが、驚いたのは「どう描くかは一切教えない」とはっきり言われたことです。表現は外から教えるものではなく、その人の内側から出てくるものだ、という考え方なんですね。私たちのレジデンスでは文脈や資源の制約もあって少し違う形ですが、その理念の純粋さには本当に心を打たれました。

QY:今回大阪で実施するパフォーマンス・ワークショップについてもお聞かせいただけますか?
BY:このパフォーマンスでは、観客の参加を大切にしています。観客自身が「人と人との関係は切り離せない」と体感できるようにしたんです。そのなかで互いの違いを認識しながら、徐々に信頼関係を築いていく。そうやって人と人の境界が少しずつ取り払われていく――これは、アートを通じて「Cripカルチャー」を表現する試みとなります。
QY: 今回のイベントだけでなく、今後は日本でどんな展開を考えていますか?
BY:日本のアーティストが「アクセシビリティ(利用のしやすさ/バリアフリー)」にどう取り組んでいるのか、また日本の障害をめぐる文化がどんな形で根づいているのか、もっと知りたいと思っています。日本では障害のある人のアートそのものの中に美を見いだしているのがとても印象的ですが、私たちはより社会的な側面に注目しています。将来的には、レジデンスの交流などを通して、Cripアートについて多様な考えを交わす場をつくれたらいいなと思っています。
TRA-PLAY vol.3 with c.95d8
「Same but Different」日時:2025年8月23日(土)15:00〜16:30(開場は15分前より)
会場:LVDB BOOKS
参加費:無料(投げ銭)
定員:10名(要予約。前日までにTRA-TRAVELのInstagramまたはFacebookより予約)
主催:TRA-TRAVEL
共催:c.95d8
助成:大阪市、芳泉文化財団
大阪市東住吉区田辺3-9-11